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鋼鉄少女隊  完結

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「楽器の女王ピアノですよ。一人オーケストラのピアノが弾けたら、他の楽器なんて軽いですよ」
「そんなにおだてたって、駄目よ。あんたも楽器やってるんだから、わかってるでしょ。音楽的なことは理解できてても、指は付いていってくれません」
「はい。その通りです。でも、この曲の場合はベースはルート弾きだけなんです。小節の頭の音出してくれればいいだけなんです。他の曲になれば、ベースラインとか作ることもありますけど。この曲に関してはルート音鳴らしてくれるだけでいいんです」
「ほんとに、そんなんでいいの?」
「そんなんで、いいんです! 今日エレキベースも持ってきてます。試してもらえませんか?」
 浜崎杏奈は何か言ってもらいたいというふうに、戸田明日香の顔を見つめる。明日香も少し考えた後、彩の顔を見る。その彩が口を開く。
「とにかく、雪乃の計画、最後まで聞いてあげよう。するか、しないかは後で決めたらいいから。いろんな方向からいろんなアイデア出し合って考えるのって大切だと思う」
 浜崎杏奈が肯く。
「わかりました。雪乃、あなたの話全部聞いてから、返事するわ」

「ということで、ベースは保留として、キーボードですけど、戸田さんにお願いしたいんですけど」
 戸田明日香が、来たか! と言うような顔をする。
「私なの……。あんたって、感心するわ。ほんと地獄耳だね」
「そうです。戸田さんはエレクトーンのグレード五級を最近取得したって情報が入ってます。五級っていったら、指導者の級ですよね。戸田さんは講師レベルってことですから、期待してます」
 彩がびっくりしたような顔で明日香を見つめる。
「えっ! 明日香ちゃん、そうなの。昔ピュセルに入ったときに聞いたけど、エレクトーンの何級かはわすれたけど、五級なんかじゃなくってなんかずっと下の級だったよね。いつ練習してたの? ほんと知らなかった。でも、すごいよね……」
 明日香が照れ笑いする。
「いや、彩ちゃん、私ね、ピュセル卒業したらどうしようかと思ってたの。で、家でこつこつ練習してたのよ。音楽教室の講師とかどうかなって、思っちゃって」
「で、明日香はどうするの? 雪乃の言うようにキーボードやって上げる?」
 明日香は首を傾げる。
「ねぇ、雪乃、バンドの中のキーボードって何やるの? 私そういうことは全然わかってないから」
「基本、キーボードはギターのコード演奏とのユニゾンです。コード弾きです」
「えっ! そんなんでいいの?」
「はい。基本はそれです。でもキーボードが入ると、バンド全体の音がすごくきれいになります。楽器全体の音の繋がりがすごく滑らかになるんです。でも、あんまりキーボードが目立つと、ギターのソリッド感が無くなってしまうので、少し控え目の音でやってもらうと、すごくよくなります。それと、裏メロ弾くこともあります。スケールっぽいなだらかな対旋律ですけど」
 明日香は肯く。
「わかったわ。それくらい多分出来ると思う」

「では、最後にボーカルですけど。彩ちゃん、お願いできませんか?」
 彩が少し驚く。
「えっ! 私? でも、画面に出てたバンドの人数は四人じゃない。私五人目だし、それに私、楽器は何もやったことないよ」
「あ、大丈夫です。このアニメでは直に新入生が入ってきて、サイドギターやることになって五人になるんです。で、彩ちゃんがサイドギターボーカルになります。最悪、音鳴らさなくてもいいです。彩ちゃんが是非必要なんです。かってのピュセルをテレビで見て覚えてくれている一般の人にとっては、彩ちゃんが一番記憶に残ってるって思うからです。彩ちゃんが居ることで、私達がピュセルの後継者であることを証明できるわけです」
 明日香が感慨深げに呟く。
「そうよねー。五期はとりあえず、ピュセル黄金期の最後を経験したもんね。で、彩ちゃんが一番テレビに出てたよ。私なんか、ピュセルのグループとしては出てたけど、彩ちゃんみたいに、単独では出なかったものね。やっぱり、昔を知っていてくれる人達には彩ちゃんがピュセル最後の継承者に見えるだろうね。彩ちゃん、やってみたら。まぁ、そのアニメソングのコンサート出られるかどうかわからないけど」
「そうね。何か行動を起こすべきよね。わかりました。そのギターボーカルやるわ。ギターのほうはなるだけ練習してみる。でも、駄目だったら、音無しにして。それで、杏奈あなたどうする?」
 浜崎杏奈も肯く。
「はい、わかりました。リーダとサブリーダがやるっていうなら、未知の楽器ですけど私もやります」

 明日香がなにか気持ちの中にひっかかりがあるらしい表情を浮かべている。
「ねぇ、雪乃。なんて言うのかな。そうやって、とにかく、なりふり構わず突っ走って行こうするあんたは、すごいと思ってるよ。でもね、情けないこと言うけどね、私も彩ちゃんもピュセルの絶頂期知ってしまってるのよ。確かに初期の先輩達はもう、駅前商店街でCD手売りやって、すごかったのよ。それ思うと甘えて居られないって思う。でもね、なんか、ちょっと寂しいのよ。ピュセルがアニメのエンディング曲をコピーして、アニメソングのコンサートにまるで前座みたいに出されるって、辛いよ。そこまで落ちぶれたかって思われるのが辛い。これが例えアニメソングでも、ピュセルのオリジナル曲ならそうは思わないんだけどね……。私が甘いんだけどね……」
「いえ、そんなことありません。戸田さんの言うとおりです。ピュセルがそれだけのために、この曲コピーして出演したら、そこまでして出たかったのかって思われるし、すごくイメージダウンになります。でも、これは隠し芸の一つだったのに、呼ばれてしまったんでやりますけど、ってことで、ほんとはオリジナル曲もあるというのを主張します。だから、ピュセルのオリジナル曲をインディーズでもいいからCDで出して、そのカップリング曲として、お遊びでこの曲も入れたと言うことにします。こういうバンド活動以外に、ピュセルがまだまだ本業のダンスボーカルグループとしてコンサートやってて健在ですというのを、その場を利用してテレビしか見ていない一般の人に伝えるのが目的です」
 明日香の顔が晴れる。
「それいいね。でも、そのオリジナル曲のほうどうするの? 玉置さんに作ってもらうわけ? あの人忙しいよ。ピュセル以外の他のグループの曲も全部作ってるんだから」
 雪乃がノートパソコンの音声ファイルを開始する。
「あのー、これ私が作ったんですけど……、玉置さんが忙しいなら、これ使ってもらえませんか。インディーズCDでいいんで。『ハヤテ』って曲です。今年の六月に日本の惑星探査船ハヤテが、九年ぶりに地球に帰ってきて、大気圏に突入して燃え上がった時のニュース映像見て作ったんです」
 雪乃の作ったメロスピの曲だった。サンプルとして作ったので、ドラムとベースは打ち込みという、コンピュータで作った音にしている。
 彩が絶賛する。
「なに、これいいじゃない。このサビのところの『未来に命をつなぐために 今日僕は燃え尽きる』ってとこ、すごくいいよねぇ」
 明日香は相づちを打ちながらも、危惧する。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫