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鋼鉄少女隊  完結

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「タケルさん。今まで、彩ちゃんを守っていただきありがとうございました。でも、残念ながら、タケルさんの働きにも関わらず、記憶を共有するという結果になってしまい、彩ちゃんは自分の苦しい体験を全部受けとめてしまいました。あなたの存在は無駄だったとはいえ、彩ちゃんと苦しみを共有していただいた事には、お礼を申し上げます。でも、あなたは彩ちゃんにとっては、もう必要ありません。速やかに彩ちゃんと交代してもらいます!」

 タケルは突然の早業で拘束状態にされてしまったことに、よっぽどパニックになっていたのか、そのまま絶句する。しばらくして、やっと落ち着いたのか、脅しのような言葉を発する。
「おまえ、自分が何したかわかってるのか! こんなことして彩がどうなるかわかってるだろうなぁ。俺を怒らせてしまったら、彩はもう二度と、表に出て来られないようになるんだぞ」
 雪乃は涼しい顔している。
「あなたが彩ちゃんと交代するようになるって、ヒント教えてくれたじゃないですか。心地よく気絶したら、彩ちゃんが出てくるだろうって」
 雪乃は自分の胸の前で、左肘を折り曲げ、V字型を作る。
「タケルさん。この手の形って何かわかります? チョークスリーパーとか、裸締めとか、スリーパホールドっていう技なんです。もちろん新体操の技じゃないですよ。このV字型で相手の首を絞めるんです」

 タケルは目を大きく見開く。
「おまえ、俺を締め殺すつもりか! 俺を殺したら、彩も死ぬんだぞ! おまえにそんなこと出来るのか。やれるものなら、やってみろ!」
「いいえ、殺しはしませんよ。このV字型の狭いほうに喉が入ってしまうと、気管が圧迫され、呼吸が出来ずに死んじゃいますが、このV字の開いたほうの腕で、両耳の下の頸動脈を圧迫して、一時的に脳への血流を止めるだけです。きっちり十秒間でやめれば、気絶するだけで、死にはしませんし、後遺症もありません。すごく気持ちよく、ふーっと意識がなくなるだけです」
「待て、待てって! なんでそんなことするんだ! なんの意味あるんだ?」
「だって、心地よく気絶させることができるから」
 雪乃はそう言うなり立ち上がり、タケルの体をまたいで、その尻をタケルの腰の上にどっかと据えて馬乗りになる。丁度、タケルの後頭部を眺めるような形だ。
「ま、待て! 話し合おう。どうだ、一週間でどうだ。一週間このまま居させてくれれば、俺は引っ込む。悪い条件じゃないだろう」

 雪乃は冷ややかな声で言い切る。
「往生際が悪いですね。昔の侍なら、こんなポジションになれば、とっくに覚悟決めてますよ」
「待てって! 俺は侍じゃない。なっ、どうだ三日だ。三日くれ! それでいい」
「無理です! 彩ちゃんは明日仕事です。今すぐに替わってもらいます」
「やめろ! おい! おまえ、俺と一緒に住んでくれるって言ったじゃないか? おまえ嘘付いたのか!」
 雪乃はちょっと首を傾げる。
「え! ああ、嘘はついてませんよ。だから、一緒に住むって約束する前に、あなたに、夢は見るかって尋ねたじゃないですか。あなたは、夢見るんですよね。だから、これからちょっと長い間、何処かは知りませんが、彩ちゃんの体か心の奥深くで眠っていてもらいます。かなり長い間ね。で、あなた夢見るでしょ。その夢の中で、私、あなたに毎日食事作って差し上げますよ。そう、あなたは、夢の中で、私のこと奥さんにでもメードさんにでも、奴隷にでもなんにでもしていてください。私のこと、もー、どんなにしても構いませんからね」
「待て! おまえ、これはペテンだろ。俺を欺したってことだろ」
 雪乃はしばらく考え込む。
「さー、どうなんでしょ? でも、夢だって覚めるまでは、リアルな現実ですよ。それに、現実の私と一緒に住むなんて、結構、苦労しますよ。私ってこれでいて、かなり面倒くさい女なんですから」

 タケルは必死で雪乃を思いとどまらせようとする。
「待てって! おまえ、喉に入ってしまったら、息出来ずに死ぬんだろ。彩も死ぬんだぞ!」
「あ、ほんと大丈夫ですから。私、小学校の頃、ケンカで二人の男の子、この技で締め落としてますから。二人とも、頭低くして寝かしておいたら、直に何ともなく目を覚ましましたから。安心していてください。慣れてますから」
 タケルは雪乃に脅しは通用しないと思い、優しい声で懐柔し始めた。
「初めて会ったときから、おまえのこと好きだったんだよ。いや、彩の記憶の中のおまえが好きだった。おまえ、すごい美人になるぞ。今は可愛い美少女だけどな」
「あ、どうも光栄です」
「な、どうだろう。この縄解いてくれないか。悪いようにはしない。おまえも家に帰りたかったら、帰ってもいいぞ。そのかわり俺と付き合ってくれよ」
「あ、お気持ち、ありがとうございます。私男の人に初めて告られちゃった。今日は初物が多い日だなぁって思います。そこまで言っていただいたら、後で彩ちゃんに知られることになるんで、すごく恥ずかしいけど、私も言います。あなた、最初はなんかすごく不気味で恐そうだったんだけど、ごはん作って上げたりしてるうちに、すごくイケメンでかっこいいなぁって、思ってしまいました。私中学、高校と女子校だったので、お店の店員以外の若い男性と話したことってなくて……、なんかこう、胸が踊っちゃいました。これって、私の初恋なのかなぁって……」

 タケルはしめたと思い、なんとか雪乃を説得しようとする。
「そうか、俺たち相思相愛ってやつだ。な、解いてくれよ。いろんなとこ、遊園地でも映画でもいい、二人でいろんなとこ遊びに行って、いい思い出作ろうじゃないか」
「でも、それもさっき玄関で終わりました。あなたに、玄関で、彩ちゃんの第二人格だって、聞かされた時です。私、わんわん泣いてしまったのは、こんなとこで、自分の初恋使い切ってしまったって悔しさです。でも、こんなの勘違いみたいなもんだから、無かったことにしようと、立ち直ったわけです。私、切り替え早いですから。だから、あなたも私のこと言いくるめようなんて、無駄な努力やめて、大人しく眠りについて下さい」
「眠るって、何時までなんだよ? たまには、俺も表に出してくれるのかよ。彩だって、俺という人格を作ってしまったという責任はあるだろう」
「うーん。まぁ、彩ちゃんがオーナーですから、彩ちゃん次第です。彩ちゃんが目を覚ましたら、また相談しときます。でも期待はしないでください。彩ちゃん次第ですから。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫