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鋼鉄少女隊  完結

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「やめてください。聞きたくありません。本人が話してくれるなら、いいけど……。そんな大事なこと、勝手に聞けません。だから、今言うのはやめてください。で、他にも教えて欲しいことあるんです。あなたから、彩ちゃんに戻るきっかけです。どうすればいいんですか? 私、彩ちゃんに戻って貰わないと困るんです。あ、そうだ、昨日のラジオ放送の録音って、彩ちゃんが行ったんですよね。あれって、どういう具合に彩ちゃんに替わってたわけなんですか?」
「ああ、あれは俺なんだ。電話かかってきてうるさいんで、とりあえず出たらラジオの録音に来いって言うんだ。風邪ひいて体調悪いって、言ったんだが、他にピュセルのメンバーが二人居て、そいつらがしゃべるから、最初と最後の挨拶だけしてくれって言われて、車で迎えに来られたわけだ。しかたなく、マスクして出かけていって、ほんとうに最初と最後の挨拶以外、何もしゃべらなかった。しかし、結構、あれはあれでおもしろかったぜ」

 雪乃はふぅー、とため息を吐く。
「ねぇ、これさえ答えてくれれば、あなたの言うこと何でも聞きますから、教えてください。あなたから彩ちゃんに替わるきっかけの、ヒントでいいですから」
「じゃあ、教えてやる。そのかわり約束しろ。おまえは、これから俺と一緒にこの部屋に住め。毎日俺のメシを作るんだ。その他、俺の言うことには逆らうな! どうだ?」
 雪乃はしばらく考え込む。
「うーん。それは……・。そうしてもいいですけど、でも、あなたを一人の人間として私が認めることができたら、あなたの言うとうりにします。まず、あなたって、眠っているとき、夢って見るんですか? 人間なら、夢を見るはずです。あなたが夢を見るなら、あなたを一人の人間として認めて、私、あなたに従います。はっきり言って、それって同棲じゃないですか。人間とじゃなければ、同棲はできません!」
 タケルはおもしろうそうに、雪乃を眺める。
「おまえとなら、楽しくやってけそうだ。彩は辛気くさくて駄目だな。じゃあ言ってやるよ。俺は夢を見る。彩が表に出ている間、俺は長い眠りの中で夢を見てるよ。これでいいか?」
 雪乃は肯く。
「はい。じゃあ、あなたと一緒に住みます。だから、ヒントください」
「教えてやるよ。彩はな苦しいことは全部俺に押しつけるわけだ。だから、楽しいことは全部、自分のものとして引き受けようとする。ずるい女じゃないか。嫌いな食べ物は、隣のやつの皿に、ぽいと置くようなもんだ。自分はうまいものばかり食べようとするわけだ。苦痛で気絶したら、俺になるなら、逆に幸福、快楽で気絶したら、彩に戻るんじゃないか? でも、どうする。麻薬でも投与するか。それじゃ、警察に捕まってしまうけどな。ヒントはやったぞ。ただ、実現には難しいだろうな。だから、俺は当分ここに居座るからな。おまえも、ずっとここに居ろ。ピュセルのリーダと一緒に住みますって言えば、おまえの保護者も会社も認めてくれるだろう」

 雪乃はじっと考え込む。そして、何かひらめいたらしく、嬉しそうな顔をする。
「はい。了解しました。私、あなたとここにずっと住んで、あなたのお世話することにします。では、そろそろ、その約束を果たすことにします」
 雪乃はトートバッグを体から降ろし、左側の床の上に置く。それを向こうに押しやる。フローリングの床の上を何の抵抗もなく、すーっと滑って行く。アグラ座りを解き、左膝を床に付け、尻を左のかかとの上に載せ、右足を立て膝とする。二本繋いだほうの縄跳びの縄を右側にすっと投げると、一本の線に伸び、それを手首のスナップで引き戻すと二つ折れになった。
「おい、おまえ。何やるつもりだ?」
「私の未来の旦那様に、踊りでも見せようかと思ったんですけど、ダンスはまだ練習中で拙いもので、以前やってた新体操の技でも見せようかなと思いまして。やってもいいですか?」
「おまえって、ほんと突拍子もないことするやつだなぁ。おもしろい、何かやってみろ」
「じゃあ、やらせてもらいます。私って、ロープ持たすと、すごいんですよ」
 雪乃は左腕を上げ、二つ折にした右手のロープをひゅっと、左脇下に振る。そして手首のスナップを効かせて、前方に向かって投げる。ロープの片端が獲物に飛びかかる蛇のように伸びて、タケルの右足首に巻き付く。雪乃はもう一方のロープの片端を持ったまま、即座に後転する。雪乃の全体重の乗ったロープはピンと張り、タケルの足をさらう。タケルは足を引かれ、ソファの上から滑り落ち、フローリングの床に背中を付けたまま、雪乃が移動しただけの距離、引きずられる。
 雪乃は間髪開けず立ち上がり、タケルの足に絡ませたロープのこちら側の端を自分の右足首に巻き付け、そのまま、右へ側転する。すると、タケルの右足が引っ張られ、仰向け状態で転んでいた体が、瓦を返すように、俯せになる。

 あまりに雪乃の連続した早い動きに、タケルは何が起こったのかわからない。雪乃は、素早く大股に一歩タケルに歩み寄る。足を引っ張っていたロープが大きくがたるむ。雪乃がロープを巻き付けていた自分の右足をキックすると、たるんでいた分のロープが輪状になってタケル目がけて飛んでゆき、タケルの首に掛かる。雪乃はロープを手でたぐりながら、素早く近寄り、左膝でタケルの腰を押さえつつ、右足は宙に浮かせて、糸巻きが糸をたぐるように回しながら、ロープを巻き取ってゆく。
 一瞬のうちにタケルは、右足と首にロープを絡められ、エビ反り状態になる。ロープを巻き取った雪乃の右膝はタケルの右肩胛骨の下を押さえる。それから、雪乃は予め、自分の左腕に撒いていたビニールの縄をほどいて、タケルの両腕を背中の位置で縛り上げる。
 流れるような動きで、自分の右足首からロープを外して、タケルの首からも輪状のロープを外す。両手首を縛られたとはいえ、タケルの左足はまだ自由で、ばたばたを暴れる。雪乃は動き回るタケルの足のふくらはぎの真ん中付近を、体重をかけて左膝頭で押さえ込む。ふくらはぎのかなり痛いツボを押さえたようで、左足はびくともしなくなり、そのまま両足をロープで縛り上げられてしまう。

 その頃になって、タケルは意味不明な怒号を上げ始めるが、雪乃はそれを全く無視して、足首をがっちり結わえたロープを持って、タケルの体を引きずる。磨かれたフローリングの床の上を体はほとんど抵抗もなく、すっーと滑ってゆく。タケルの体はリビングの中央に俯せで、両腕を逆手に背中で縛り上げられ、両足首はがっちり縛り上げられて、横たわることとなった。その頃になって、やっとタケルは意味のある言葉を発する。
「何するんだ! 放せ! 解くんだ! 冗談もいいかげんにしろ!」
 雪乃は俯せ状態のタケルの頭のほうに移動して、上目遣いに見上げるタケルの目をじっと見据えながら床に正座して、タケルに向かって手をつき頭を下げる。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫