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鋼鉄少女隊  完結

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「いや、彩ちゃんに戻ったとき、いちいち私から言わなくても、全部わかっていてくれるから、説明する手間はぶけていいなぁって……。で、もう一つの疑問なんですけど、一昨日の二次会で彩ちゃんとあなたが入れ替わってしまったんですよね?」

「そうだ。彩は酒癖が悪いんじゃなくて、酒が飲めない。アルコールアレルギーと言ってもいい。みんな彩は酒を飲むと人が変わるといっているらしいが、文字通り、人が変わってるんだ。俺は彩が苦痛から逃げ出すために作られた人格だ。だから、彩は酒が体にが入ったショックで、俺にバトンを渡すわけだ」
「じゃあ、あなたは、どうしてあの席で戸田明日香さんを殴ってしまったんですか?」
「あれはな、俺は柴田を殴ろうとしたんだ。でも止めに入った戸田明日香に当たっちまった。柴田は彩に酒勧めたが、彩は酒を飲めないと断っていた。しかし、彩が酒癖が悪いという風聞を確かめたくて、彩が席を立ったすきに、柴田はなにかあまり味のしないキツイ酒、ウオッカかなにかを彩の飲んでいたジュースに入れたようだ。彩はうっかり飲んでしまって、苦痛の余り俺に体を渡した。俺は別に酒の影響はない。すると、柴田が、なんだ飲めるんじゃないですか、などと言ったので、こいつが酒を無理に飲ましたとわかった。むかついたから、殴ろうとした」
「そういうことだったんですか。彩ちゃんとあなたが入れ替わるのは、彩ちゃんが苦痛を受けたときなんですね?」

「そうだ。でも、結局は全ての苦痛の記憶は引き継いでしまうので、彩は次第に苦痛から逃れようとしなくなった。そのため、俺の出番はほとんど無くなっていた。しかし、アルコールが体に入ったときは心で押さえきれないらしく、たやすく俺と変わってしまう」
「と、言うことは、彩ちゃんはおアルコールさえ体に入らなかったら、あなたにはならないんですね」
「今はな、そういうことだ。だから、彩はすごく気をつけている。ケーキ類は食べない。ブランデー入りのやつがあるからだ。だから、最近は俺になかなか替わりやがらない。俺が出てきたのは一年半ぶりくらいかな。久しぶりだから、当分はこのまま居座るつもりだ」
「じゃあ反対に、あなたから彩ちゃんに変わるきっかけというのは何なのですか?」
 タケルは少し考え込む。
「そうだな……。前は一晩眠れば、彩に戻ってしまっていた。でも、今回はこれで三日間、ずっと俺のままだ。もしかしたら、一生俺がこの体で生きるかもしれんぞ」
 タケルは愉快そうに笑う。

「それじゃ、困るんですけどね……」
 雪乃はなにか彩に戻す手だてを考えねばと思った。しかし、タケルがそれを隠している可能性もあった。もう少し、しゃべらせれば、もらすかもしれないと思った。
「じゃあ、最後に彩ちゃんと田口社長の関係について教えてもらえませんか?」
「これはなぁ、話せば長くなる。まず、彩が小学生の時、実の母親が死んじまったんだ。安村和子はとうとう一人で自殺してしまったんだ。勤め先のスナックを深夜出ると彩の待つ自宅には帰らず、港の岸壁から身投げしちまった。彩は次の朝、何処かに母が酔いつぶれて倒れていないか探し回った。そして、岸壁に母の靴が揃えられて置かれいてたのを発見したんだ。遺書は無かった。警察が港内を捜し回ったが、母親の体は見つからなかった。それから、一週間後、港から一キロほど離れた、海岸の砂浜に母親の水死体が打ち寄せられていた。
 彩は隣人の大人と共に、その砂浜に駆けつけた。丁度、警察の検視が始まっていた。彩は母の姿を一目見て、気を失った。母の顔は魚かカニに食われて、瞼、唇が無く、目も喰われ、ぽっかりと穴が開いていた。で、彩の気絶で俺が入れ替わり、じっくりとその死体を観察してやった。だから、彩には母親の死体の全身の傷み具合の記憶が完全にある」

 雪乃はタケルを睨みつける。
「なんて、残酷なことするんですか! ひどすぎます! あなたは目を逸らしていればよかったのに……」
 タケルは得意満面な顔をする。
「だが、それが俺の役割だからな。彩にとって苦痛なことは俺が引き受けるってことだからな。引き受けてやったのに、それをまた追体験するのは彩の勝手てもんだ」

 雪乃は怒りに震えて、手に持った縄跳びの縄を握りしめる。しかし、まだ聞いておきたいことがある。これを使うのはもう少し後だと思い直す。
「で、結局、彩ちゃんと社長とは、どう関わり合うんです?」
「まぁ、待て! おまえもせっかちなやつだなぁ。順序立てて話してやってるんだろうが……。親を失った彩は児童擁護私設に収容された。しばらくして、東京から藤崎夫婦がやって来たんだ。彩の母の昔の知り合いだと言った。安村葉月のサインの入った、母の古い写真を持ってきていた。新聞の記事を見て、和子が死んだのを知って駆けつけてきたといい、夫婦には子供がいなかったので、彩を養女にして、東京の自宅に連れ帰った。
 それから、彩は藤崎夫婦に大事に育てられた。彩も母と同じで歌が好きなので、夫婦は彩を音楽教室の声楽コースに入れた。
 彩が小学校六年の時、ピュセルのオーディションがあった。ピュセルがまだ人気を誇っていた頃だ。夫婦は彩にオーディションを受けさせた。その歌唱力は誰からも、ピュセル歴代では一番と認められ、彩は合格した。
 彩がピュセルの新メンバーとして、出社した日、他にも合格したメンバーが居るにも関わらず、彩一人が社長室に呼ばれた。そして、社長の田口は、自分が彩の本当に父親だと名乗った」

 雪乃は目を見開く。
「えっ! 社長は彩ちゃんのお父さんだったの!」
「まぁな、だが、彩のほうは結構、複雑な気持ちなんだな、これが……。新聞で、和子の死亡記事を見つけたのは田口だった。田口には妻も子もいた。だから、自分の大学時代の友達の藤崎に頼んで、養女として育ててもらったというわけだ。
 彩にしてみれば、田口に全く見覚えがない。母と昔、関わりのあった人らしいとは推測したが、彩は田口と母がどういう関係だったか、田口に聞くことが出来ない。田口も彩にそのあたりのことを詳しく語ろうとしない。今なら、DNA鑑定をすれば、すぐわかるんだろうが、お互いにそんなこと言い出せない。それで、今でも彩と社長の関係は、社長と従業員以上だが、父と娘というにはあまりに疎遠な関係というわけだ。
 それに彩はDNA鑑定で実の父とわかっても、多分、今以上になじむことはないだろう。彩にとって、父親とは、かって秋田に居たとき、最初に父親として紹介された男だった。その男は彩に優しく、彩もその男に懐いていた。たとえ、血は繋がっていなくても、あの男のほうをずっと本当の父親だと思ってきたので、いまさら、心を切り替えることができないんだ。田口も養父の藤崎同様、自分に対する厚遇に感謝はするが、義理の父親同様の心の距離でしかないわけだ。
 で、彩は秋田の最初の父親との間に、一つの思い出があって、それから離れられないで居る。その思い出が、白鳥なんだよ。彩は昔から、白鳥ものばかり集めている。あいつの心の中のこだわりなんだ。なんで、白鳥にこだわるかって言うとな」

 雪乃はタケルの言葉を途中で遮る。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫