鋼鉄少女隊 完結
「あのー、もしかしてピュセルプロジェクトのスタッフの方なんですか? グリーンプロモーションの社員の方なんですか? じゃないと、そんな内々のことまで知ってるわけないですよね」
タケルは急にげらげら笑い出す。
「お前って、まだ気付かないのか。俺の正体」
雪乃は首を傾げる。
「三日前、お前が尻をヤブ蚊に刺されたとき、もう一人蚊に刺されて肘の内側腫らしていたやつが居ただろう」
タケルが左腕を突き出す。その肘の内側が赤く腫れている。雪乃が叫ぶ。
「嘘だー! 嘘だ! そんなの嘘だぁー!」
タケルは自分の着ている、だぶっとしたポロシャツの両脇をぎゅっと絞る。胴に見事なくびれが現れる。両の胸が膨らんでいる。
「嘘だー! あ、彩ちゃん……。彩ちゃんなの?」
タケルのにんまりした顔をじっと眺めてみる。そのふてぶてしい表情、意志の強そうな口元、座りきった目は全く男を思わせる。でも、よくよく見ると、その顔の目鼻の配置はすっぴん時の彩の顔そのものなのだ。
「俺は彩の第二人格だ。だから、俺が出ている間は、彩の人格は現れない」
雪乃は玄関の土間にそのままへたっと座り込んでしまった。今年の春、雪乃と同じ高校に通っていた友達の女子高生、美咲が言っていたことを思い出した。美咲の姉が心理学の講義で聴いてきたという精神障害の病名。
「もしかして、解離性同一性障害……」
タケルがゆっくりと肯く。雪乃は声を上げて泣き出す。
「どうした? 彩が多重人格だったのがそんなにショックだったのか?」
雪乃は恨めしげに彩の第二人格を睨みつける。自分が今泣いている理由は、あんたなんかには一生打ち明けるものかと思った。
『初恋だったのに……』