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鋼鉄少女隊  完結

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 雪乃は会場をゆっくりと見回す。
「私みたいな新入りをこんなに歓迎してくれて、ほんとにありがとう!」
 観客が沸く。
「私、小学校一年の頃、ピュセルが大好きでそっち側、観客席のほうに居たんだ。いつかピュセルに入って、自分も舞台で歌ったり踊ったりしたいって思ってた。でも、いろんなことあって、ピュセルのこと忘れてしまってた。それから、もう一度ピュセルと巡り会えた。その上、ピュセルに入れてもらえた。すごく嬉しかった。すごくラッキーと思った。自分の運命にお礼言わなきゃって思った。だけど、今日この会場に来て、みんなを見て私、わかったんだ。ほんとに、お礼を言わなきゃいけないのは、ここに集まったみんな、ここに来れなくてもピュセルを応援してくれているみんなにお礼言わなきゃって」
 会場全体が耳を澄ます。
「女子のアイドルグループで十年以上も続いてるのって、ピュセルだけだよ。でも、ピュセルが続いてるのは奇跡じゃない。みんなのおかげなんだ。みんな! ピュセルを今まで守っていてくれてありがとう! 私、ピュセルに間に合ったよ。ピュセルに入ることが出来た。みんながピュセルを守り続けていてくれたおかげで、今! ピュセルに入ることができたんだ!」
 観客席が大歓声に沸く。
「私がピュセルが好きだった小さな頃は、アリーナで二万人コンサートやってた。日本中の人がピュセルのメンバーの顔も名前も知ってた。日本中の駄菓子屋でピュセルのカード売ってた。ピュセルがテレビに出ていない日なんてなかった。あの頃のことをピュセルの黄金期というらしい。そしてピュセルは衰退期に入ったって。ネットのWikiにそう書いてある。でも私はピュセルを黄金期に戻したいと思わない。私、今日の昼公演、観客席側で舞台見てた。私、震えた。ダンスもすごい、歌も生歌ですごい。やってる曲もすごいユニーク。他にはないピュセルだけのカラーの曲。こんなピュセルはもう黄金期なんかに戻る必要はないと思った。金なんてピカピカ光ってきれいに見えるけど、装飾品や置物にしかなれないような金属だよ。今のピュセルは置物じゃない! 今のピュセルは磨き抜かれて美しく光るけど、振り下ろせば人でも物で切ってしまう日本刀の鋼鉄だ。今のピュセルは鋼鉄期にいるんだ!」
 観客が、オー! オー! と叫び出す。
「『嚢中の錐』って言葉がある。子供の頃、お祖父ちゃんに教えてもらったんだ。嚢とは皮の袋ことで、その中に先の尖った錐が入っている。皮の袋が中の錐を幾ら隠そうとしても、錐は自分で皮を突き破り出てきてしまうんだ。今、ピュセルは皮の袋に入れられている。でも鋼鉄のピュセルは皮を突き破って必ず出てくるんだ。だから、みんな! お願い! あともう少し、力貸して! 鋼鉄のピュセルにファンのみんなが加わってくれれば、鋼鉄の軍だ! 今、ピュセルは正当に評価されていない。ピュセルが正当に評価される場所まで行きたい! だから、一緒にあの向こうまで突き抜けて行こう! だから……。みんな! 力貸してください!」
 その瞬間、観客達の声は怒濤の嵐のように吹き荒れ、人々は天に向かって腕を力強く突き上げた。

 舞台上手の袖の暗がりで舞台と客席を見守っている男が二人いる。うち一人が苦笑混じりで呆れたように、隣の人物に聞こえるくらいの小さな声を発する。
「この子って、何なんですか! ピュセルの新人で就任演説やったなんてこの子くらいでしょう! この子はやっぱり、ソロのほうが向いてるんじゃないんですかね。何万人もの客を一人で扱えるようなカリスマ性がありますよ」
 その声は玉置だった。傍らに居る社長の田口が口を開く。
「ソロもいいだろうが……、まぁ、突拍子もない子だが、人付き合いは良さそうなのでグループでも頭角を現し、いずれリーダとしてやってくだろう。だが……、この子はピュセルを一段押し上げてくれるかもしれないという期待はあるが……・、逆にピュセルを粉々に破壊してしまうんじゃないかという危惧も感じる……」   


作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫