鋼鉄少女隊 完結
「えっ！ そんなに危ないものなの。車輪が余分に横に付いているから、自動車みたいに、こけなくて安全だと思ってたのに」
「そぅ。うまくいかないもんだね。立ちごけは無いかわりに、右に曲がるときは、スピード落としてヒヤヒヤだよ。逆に左は安定して回れるんだけどね。でも、たぶんこんなバイクだから、飛ばそうとか、前の車追い抜こうなんて思わないから、安全かも」
「高速道路走ってゆくの？」
「うん。飛ばさずに左車線走ってくわ。高速使ったら二時間弱の距離だよ。だから、休みの日には帰ってくるね」
祖母は笑っている。
「いいよ。慣れてない仕事で疲れるだろうし、東京の学校の勉強もあるし、たまにでいいよ。向こうのお祖父さんやお祖母さんへの孝行もして上げて」
ふと見ると、向こうの電柱の陰に美咲が立っている。雪乃が、片手を上げる。美咲も手を上げながら、近寄ってくる。
「あんた、本当にこれ買ってしまったんだ。まさか本当に買うなんて思わなかった。バイク屋の前通るたびに、これ買う買うって言ってたけど、何、夢みたいなこと言ってるのよって思ってた。あんたは、思ったことは本当にやってしまう子なんだ。だから、多分あんた、きっとバンドでメジャーデビューできるよ。でも、当分はアイドルで頑張って」
「ありがと。美咲も演劇のほう、頑張って」
「うん。私も、また他の劇団のオーディション受けてみるつもり」
後に回していた右手を突き出す。手には布製の青い花のラウンドブーケを持っていた。
「これ上げる。青いブーケは幸せを呼ぶって」
「ありがと。私も美咲に上げるものがあるんだ」
雪乃はバイクの後部につけた、プラスチックのトップケースを開いて、中からリボンのついた箱を取り出して手渡す。美咲はそれを開く。中には陶器製のとぼけた顔の猫のペン立てが入っていた。
「これ本当にくれるの。あんたのお祖父さんがイタリアで買ってきたお気に入りでしょ。いいの？」
「うん。美咲も、これがツボにはまってたよね。うち来たらいつも撫でててたし。でも、ごめんね、私のほうはお金かかってないよ。こんなブーケって高いんでしょ？」
美咲は、あっけらかんと言う。
「あ、私のほうもタダ。お母さんが趣味のアートフラワーで作ってたやつ」
二人は顔を見合わせ笑った。