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鋼鉄少女隊  完結

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第六章 ラ・ピュセル



 村井雪乃が入った「ラ・ピュセル」は、かっては国民的アイドルグループと呼ばれていたが、今はその一般国民からは忘れ去られたようにほとんどテレビ出演もなく、興業の世界にいるアイドルグループとして、日本全国でコンサートを続けていた。ただ昔からついていてくれるコアなファン達がその全国ツアーを追っかけて観に来てくれており、入場料とメンバーの写真、Tシャツなどのグッズの売り上げで充分採算はとれているのだ。
 ラ・ピュセルは十年ほど前、テレビのあるバラエティ番組の中のオーディションコーナで作られた企画ユニットだった。元々がソロの歌手をデビューさせるオーディションがあって、そのオーディションに落ちた女の子達を、かき集めて、グループにしたものだった。落ちこぼれが、必死にはい上がってゆくさまが売りだった。 
 だから、グループ名としては「残りものシスターズ」とか「田舎娘上京隊」とか「芋ネェちやんズ」とか、とにかくひどい名前が候補に上がっていた。そして番組の中で、それらひどい名前をルーレットに書き、回転させ、それをグループのリーダーがダートの矢を投げ、突き刺さった場所のグループ名にするという企画が組まれた。さらにおもしろさを倍加させるため、「ラ・ピュセル」という名を、盤面の僅か2センチほどの幅の区間に書いた。
 ラ・ピュセルとはフランス語で「乙女」を意味するが、フランス百年戦争の中で、神の啓示を受けて参戦し、オルレアンを解放した農民の娘ジャンヌ・ダルクの異称でもあった。そんな、かっこいい名前を書いたのは、まさか、あの僅か2センチの幅に当たるまいという意図と、はずれた時のメンバーの女の子達の悔しそうな顔を撮りたいというものだった。
 初代リーダーの川口真由美は、目をつり上げ、鬼の形相でダートの矢を放った。鬼の一念は、その僅か2センチの幅を貫いた。公開生放送だったため、その名にするしかなかったが、「ラ・ピュセル」ではかっこ良すぎて、番組の意図に反すると、「ラ・ピュセル〜田舎娘上京隊〜」という、ダサいサブタイトル付きのグループ名となった。そして、当初はラ・ピュセルとは殆ど呼んでもらえず、「田舎娘」と呼ばれていた。確かに、グループ初期の五人は全て東京以外の地方出身者でもあった。
 初期メンバーは、グループ解散をかけた、CD手売りキャンペーンをやらされた。指定された期日までに、指定の枚数を売り切らなければ、解散というやつだ。彼女らはそれを勝ち抜いてきたハングリーな女達だった。
 『ラブリーウーマン 』は初期ピュセルのミリオンセラーとなった曲だ。それまで、女子のダンスと歌のユニットは幾つかあったが、そのダンスも歌のレベルもプロの洗練されたもので、とても素人の真似できるものではなかった。しかし、ピュセルは歌のメロディも単純で、そのダンスの振りも素人にでもたやすいものだった。そのため、一般の下は小学生女児から二十代の女性がこの振り付けで歌えた。その上歌詞も振り付けもそれまでには無かった斬新さといおうか、微妙にダサイものだった。そのダサイのがまた一度見聞きしたら強烈に印象に残り、クセになるような曲だった。今でも、この歌は若い女性のカラオケの選曲第一位となっている。
 ピュセルはこの歌のヒット以来、大幅に変わっていった。テレビの公開オーディションで容姿、歌唱力に優れたものをどんどん採用し、メンバーを入れ替え、増員して行った。ここからピュセルの黄金時代が始まる。アリーナに、二万人の観客を呼ぶコンサートが次々と開けるようになっていったのだ。

 新入りとしてグループメンバーの女の子達に挨拶することになった。先日、皆の前で大泣きしてしまったことが恥ずかしくて、普段の雪乃らしくなく、伏し目がちなしおらしさだった。
「みなさん。先日はご迷惑をおかけしました。今日からピュセルの一員となることができましたが、小学生の頃、ピュセルのファンだったのでとても嬉しいです」
 控えめな挨拶は、全員に好感を与えた。メンバー達も一人一人、古い順から自己紹介をしてくれた。雪乃は、予めネットを検索してピュセルの歴史、歴代メンバー、今までの曲などを全て調べ上げ、ファイリングしていたので、紹介前から顔と名前とプロフィールについては熟知していた。何故か、その場に彩は居なかった。
 一番最後に自己紹介したのは、雪乃と同じ十六歳メンバー、浅井麻由だ。共に、現在のピュセル最年少ということになる。
「よろしくぅ! やっと後輩が出来て、嬉しいよ。判らないことあったら、なんでも聞いてね」
 サブリーダの明日香が麻由の肩に手を掛ける。
「よかったね。後輩が出来て。でも、あんたダンス苦手なんだから、練習しないと抜かれちゃうよ。さぁ、明日からの東京公演に供えて、ダンスの特訓。レッスンに行こう。」
 麻由はしぶしぶ立ち上がる。
「まじですか! それ。でも、今日は彩ちゃんは先に行ってるんですか?」
「彩ちゃんは、社長室でプロデューサと打ち合わせ中。あっ、そうそう、雪乃ちゃんはね、ここでメンバー紹介終わったら、社長室のほうに来て欲しいって」

 雪乃は五月一日付けで、グリーン・プロモーションに入った。しかし、ピュセルは三月から毎週土、日、祭日に続けていた春のコンサートツアー最中だった。関西方面の公演から帰ってきた五月三日にメンバーに正式に紹介をされたのだった。
 最終の東京公演、五月五日で、雪乃は第十期メンバーとして舞台紹介されるということになっている。もちろん、ピュセルとしての演目には参加しない。雪乃の本格的参戦は、秋のコンサートツアーか夏のピュセルプロジェクト全体のコンサートとされており、それまで歌やダンスのレッスンを受けることになっていたのだ。
 ピュセルプロジェクトにはピュセル以外に三つのアイドルグループがあった。どれも、ピュセルの成功後にその収益を元に作られたものだが、ピュセルのオーディション落選者の中でも優秀な者とか、研修生から昇格した女の子達によって構成されていた。

 雪乃は社長室に出向くと、 彩とピュセルのプロデューサが社長と共に居た。ピュセルの音楽プロデューサは、三次選考時に雪乃にギターのことなど質問をしていた長髪の中年男性だった。彼の名は玉置芳雄、ピュセルの全ての楽曲の作詞、作曲を行っている。
 三人は丁度、ノートパソコンをのぞき込んでいた。玉置がノートパソコンの画面を雪乃のほうに向ける。
「これ見てくれる」
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫