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鋼鉄少女隊  完結

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「じゃー、ベースも弾けるんだ」
 スーツ姿の五十代くらいの女性。
「声量すばらしいわね。ボイストレーニングのレッスンに通ってたの?」
「いえ、自己流の練習です。高校生のバンドって、プロとは違って、ボーカルのことなんか考えず、ドラムもアンプも大音量でやってくれますから、その中で声が通るように必死で、喉傷めずに大きな声出せる練習しました」
 スーツの頭の毛のまばらな男性。
「ボーカルの練習のためにカラオケとかで、よく歌うんですか?」
「いえ、カラオケはほとんど行きません。カラオケのガイドメロディがじゃまというか、すごく違和感あって歌いにくいです。ディレィやリバーブみたいな、へんにエフェクトかかってて、自分の生の声じゃないので、あんまり練習になりません。バンドのボーカルは他の楽器との戦いですから、バンドの中で歌わないとうまくならないと思ってます」
 中年女性。
「メロディックスピードメタルのバンドでギターかドラムやりたいということなんだけど、ソロの歌手としてやる気はないの? 声量もあるし、声もきれいだし、音域も広いのでいいかなと思いますけどね」
「いえ、楽器演奏が希望です。ベースもキーボードもできますので、どこのパートでもいいからバンドやりたいんです。ソロシンガーの曲はあんまり好きじゃないです。メロディと歌中心というのが肌に合いません。それぞれの楽器がぶつかり合ったり、自己主張しながらも心地よくリズム、ベース、ハーモニー、メロディが混じり合っていくのが好きなんです」
 長髪の中年男性。
「ギター、キーボート、ベース、ドラムの中で一番、演奏していてノレるっていう楽器は何?」
「ベースですね。ベース弾いてる時が一番ノレます。ルート音だけでも気分良くなりますけど、コードに合わせて展開音弾いてるときが、最高ですね」
 それから、用意してあった、ドラムを叩かされた。すごく高価なドラムセットだった。チューニングキーで、スネルドラムの張りを調整しようと思ったが、スネルもベースドラムもいい具合になっていた。
 あと、ベースとキーボードも出来ると言うと、それぞれエレキベースとキーボードを用意され弾かされた。

 これだけで、雪乃に割り当てられていた三十分が過ぎてしまっていた。次に、新体操のほうは時間切れで披露することもないだろうと思っていた。しかし、そちらのほうも促されてしまった。
「あの、私の割り当て時間の三十分過ぎてしまいましたけど」
「ああ、いいんです。割り当て時間は目安ですから。それに、一発芸程度で三十分なんて必要ない人もいるのでね。新体操でやってられたこととかも、見せてくれますか。そのジャージでやりますか、着替えてきますか?」
「いえ、この下に着込んできてますから」
 雪乃はジャージの上下を脱ぎ、紺の長袖のレオタード姿になる。手提げの中からハーフシューズを取りだして履き、さらにロープを取り出し手に持つ。
「あの、音楽有りませんし、天井が思っていた程高くなくて、ロープ上に投げ上げられませんので、適当には短くはしょってやらせてもらいます」
 雪乃は流れなど考えず、自分の好きな技を適当に連続させることにした。右足を横バランス二分の一回転、ロープをその足に巻き付け補助にしている。縄跳びにして勢いをつけて走って高く大ジャンプ。開脚した足は二百二十度くらいは開いた。もぐり回転二連続。後方に足を上げバックル二分の一回転。足持ちターン一回転。得意のMGキック転回をやって終えた。面接担当者らが拍手してくれた。
 スーツの頭の毛のまばらな男性。
「いや、新体操のことわからないんですけど、中学の新体操部と聞いてたから、失礼だけどお遊戯みたいなものかと思ってました。こんなにダイナミックなものとは思いませんでした。選手として大会とか出られてたんですか?」
「はい、静岡県の中学総体とか全国中学校体育大会には出ていました」
「で、成績のほうは?」
「三年のとき、県のほうで個人演技でロープで一位。団体演技はリボンで三位でした。全国のほうは出場しましたが、入賞はしていません」
 数人が肯いている。
 中年女性の質問。
「バレーとか、ダンスの経験はあるの?」
「新体操部では試合が近づくと、バレーの先生がやってきて、指導してもらいました」
「バレーはやってみて、どうでしたか?」
「楽しかったです」
「どういうところが楽しかったですか?」
「先生がとても優しくて、ランニングとか筋トレも無かったし、無茶な柔軟もなくて、ほんとに楽しんでやれたところです」

「三年間、新体操続けていて、得たものは何かありますか?」
 雪乃は笑いながら答えた。
「柔軟中毒になりました。子供の頃から柔軟マニアだったので、左右開脚百八十度は普通に出来ていたのですが、さらに拷問みたいな強制柔軟で左右開脚二百二十度、前後開脚二百五十度までは開くようされました。それから一日でもさぼると開かなくなるので、また拷問のような苦痛が恐くて、毎日家でもやってたんです。新体操やめても、それが習慣になっていて、夜、お風呂上がりに柔軟やらないと、そわそわして眠れないんです。でも、これやると、なんか嫌なことあって落ち込んでても、心がすっきりします。私にとってストレス解消の手段です」
 中年女性が続けて尋ねる。
「どういう柔軟の練習をするんですか?」
 雪乃は椅子を一脚借りて、その横の床にべったり座る。椅子に左足をかけて、右足は床に伸ばし、左右の足を一直線に伸ばす。百八十度の開脚からぐっと開いて行き、左右開脚で確かに二百二十度は開いた。次に体をねじって、左足を前足、右足を後足の位置にする。すると、宙に浮いていた股間が床に着いて、逆の九十度近く開く。前後開脚二百五十度くらいだった。
「それから、腰の柔軟もやります」
 雪乃は床に俯せになる。それから、片方の足を背中のほうに反って上げ、頭上に持ってゆく。残った片方の足も反って上げ、二つの足を前方に下ろしてゆく。雪乃の胸のあたりで体が二つ折れになって、雪乃の尻が頭に乗ってしまった。雪乃はこの人達には異様な光景だろうと思う。顔の上、頭頂部に人体の尻が乗り、両の足が顔の左右に並んでいるのだから。
 髪ののまばらな男性がぱちぱちと拍手する。
「すごいですね! 中国雑伎団みたいだ」
 中年女性が微笑みながら納得する。
「なるほど、ヨガのような心身リラックスの効果があるのね。でも、私には絶対に無理。病院行きになりますよ」
 雪乃はこれで、この会場のほうは終了した。上下のジャージを着て、演技会場のほうに移動させられる。

 そこの控え室には三人の女の子が待っていた。横に居た会社の男性社員が雪乃に台本を渡す。
「丁度四人になったので、この四人で演技をやってもらいます。この台本を読んで、それぞれの役を決めてください。十分ほどの短い場面です。練習時間は一時間です。一時間後演技してもらいます。科白覚えきれなくても、台本見ながらでいいですから」

 待っていた三人は既に、それぞれ手に台本を持っていた。雪乃は三人に挨拶する。
「あの、村井雪乃、高校二年。十六歳です。静岡から来ました。よろしくお願いします」
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫