鋼鉄少女隊 完結
「そんなんじゃ、おもしろくなくて、噂にならないでしょ。言いにくいんだけど、体の中の大事なとこが破れちゃったんだって、血も出たって。先生もそれから、辞めろとは言わなくなったんだって。結局、新体操部続けて、卒業するまで試合には出れなかったけど、部員全員がその人を尊敬していたんだって。『新体操に処女を捧げた人』って」
美咲がげらげら笑い出す。
「それは、嘘! 嘘だよぉ! それはその子のネタだよ……、そんなの有るの? ほんとかなぁ。でも、ほんとだったら、私も危ないとこだったのかなぁ」
そんな雑談で盛り上がりあがった後、美咲がやっと、本題に入った。
「ねぇ、あんた演劇に興味ない?」
なるほど、そこかと思った。美咲は中学でも高校でも演劇部だった。
「ありません! 軽音部は確かに休部だけど、演劇部には入りません。私はガールズバンドがやりたいの!」
「違うよ! 演劇部に入れって言ってるんじゃない。これ見て!」
美咲は紙袋の中のクリアファイルから、何かの申し込み用紙を取り出す。
「え、何? 『女子高校生新人女優オーディション』、って。私はこんなの、無理よ。あんたみたいに、舞台で科白なんてしゃべった経験ないしね。あんた一人で申し込みなさいよ」
雪乃はきっぱりと言った。
しかし、美咲は突然、がばっと頭を下げる。
「ごめんなさい! もう、一月前に申し込んでしまったの。一次の書類・写真選考は通ってしまったの。私達」
「はぁ! 私達……。私のぶんも勝手に申し込んでしまったの?」
「そう、ごめんなさい。今日パソコンのメールで一次通過のメールが来てた。あんたの分の申し込み用紙にはあんたのメールアドレス書いておいたからね。それで、今さっき見たけどあんたにも合格メール来てるよ」
美咲は雪乃のパソコンで学院のホームページを開いたついでに、こっそりメーラを開いて、雪乃に来ているメールも確認していたのだ。
「あっ、これか。『一次選考通過のお知らせ』ってのある。何勝手なことやってるのよ! 人んちのメールも勝手に見るな! それに応募の写真はどうしたのよ?」
「去年の春、高校入学の時、正門前でうちのお母さんが私とあんたを撮ったでしょ。あの写真使った」
「殺す!」
「わぁ、殺さないで! だから、お詫びにこの服上げるって言ってるのよ」
雪乃は美咲がサンプルに持ってきた未記入の申し込み用紙に目をやる。
「それで、このプロフィール欄には、何て書いたの?」
「高校軽音楽部部長。パートはドラム、ギター、ボーカルって書いたよ」
「それから、この将来の希望欄は?」
「歌って踊れるミュージカル女優になりたいです。って書いたよ。でも……、成りたくないよね……。ごめんなさい」
「そう、成りたくない。私はガールズバンドをやりたいの!」
雪乃は一次合格通知のメールを開いて、声を荒げる。
「二時選考が一週間後の日曜だって! 私、行かないよ!」
結局、美咲が拝むように頼むので、ゴスロリ・ドレスを貰ってしまった。憂さ晴らしもあって、興味本位で受けてみようかという気になった。
第二次選考は全国の都道府県別に行われるということで、雪乃の住む県の県庁所在地の都市で行われることになっていた。雪乃は美咲の介添えような立場で参加することになった。舞台で科白もしゃべったことのない自分が通るなどと思わなかった。