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亡き王女のためのパヴァーヌ  完結

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「それで、横笛が死んだあと、滝口入道はどうしたの?」
「知らせを聞いた滝口さんはね、川に駆けつけて、横笛の死体を引き上げるの。『ああ、かわいそうなことをした。むごいことをした。許してくれ』って泣きじゃくるの。それから横笛を火葬して、骨をひろって、自分の胸からかけてる袋の中に納めて旅に出るの。あちこちのお寺で横笛の供養をするの」
「それで、最後は高野山に上ったんだ」
 由紀は意外だという顔をする。
「高野山には行かないよ。そのまま、さすらって行くんだ」
「ふーん! 高野山に上って、高僧になったってことになってるけど、漫画ではそうじゃないんだ。最後はどうなちゃうの?」
「あちこちを旅しては、滝口さんはね『横笛、桜がきれいに咲いてるよ』とか『今日は見事な満月だよ』って首に提げた横笛の骨に語りかけるの。そうやって旅を続け、最後は病気になって行き倒れて死んでしまうのよ。その地の人がね、滝口さんと横笛の骨を一緒に葬ってくれるの。この話、せつなくて、悲しくて、きれいで、私、泣きまくりだよ」

 雪乃が口を真一文字に結び、うんうんと肯く。由紀は、ほーっと ため息をつく。
「なんか、横笛がうらやましくてさ。私の骨をこんなに大事に肌身離さず持って、私だけのことを思ってくれたなら、死んでも幸せだろうなって思うの」
 雪乃が優しく微笑む。
「まずは、滝口さんを見つけないとね。彼氏は出来たの? あんた、かわいいんだから、出来なきゃおかしいよ」
 由紀はうんざりという顔をする。
「そんなの居たら、真っ先に雪乃に話してるよ。私って、駄目なのよ。漫画の中のかっこいい男には夢中になれるんだけど、現実の男の人見ると、何かピンと来なくて……」
「由紀は二次元オタクだな」
「えーっ! ひどい。でも、そうかも。私は二次元オタクかもしれない。でも、そういう雪乃はどうなの? あんたけっこう美人じゃない。何故出来ないの? それとも居るの? 隠してるの?」
 雪乃は天井を見上げて、やれやれといった顔をする。
「私には男が寄りつかない。私って、すごく、きつい女だって思われてるから」
 由紀がにやにやする。
「だいじょうぶ! 雪乃のタイプはね、ドMのオタクにもてるんだよ。これ絶対!」
 雪乃が胡散臭そうに言い返す。
「なにが、ドMのオタクよ。オタク返しされちゃったね。そんなわけないでしょ。根拠はなに?」
 由紀は自信満々だ。
「だって、私がドMのオタクだもん」
 由紀は雪乃の腕にすがりつく。雪乃は軽く、由紀を突き放す。
「もう、やめて! 暑苦しい!」
 由紀はその場に倒れ伏してしまう。雪乃が毒づく。
「もーう! その手にはのらないよ! なにしてんの!」
 由紀はぴくりともしない。雪乃は心配になって顔を覗く。由紀の顔が顔面蒼白で、歯を食いしばっている。
「由紀! どうしたの! 由紀!」
「背中が……」
 雪乃は携帯を取り出す。
「由紀! しっかりして! 由紀! すぐ救急車呼ぶからね!」