四神五獣伝一話 2/2
俺の体から光が収まっていったが、その瞬間何かが違っていることに気がついた。俺も、かがりと和泉同様衣類が、神楽町に着いた私服ではなく紫を基調としたコートとズボンを身に纏っていた。その姿は、おおかた魔法服の男版と言ったところだろう。
「オイオイ嘘だろう、俺いつの間に魔法使いの弟子になったんだ!?」
「最初は慣れなくて戸惑うけど、すぐに慣れる。さぁあるじ、私達と共に戦おう!」
俺には、優しげな言葉をかけているが、敵に鋭い視線を送っていた。
「こうなったら、やるしかないようだな。」
そして、俺も目の前にいる敵に睨みをきかせた。聞きたいことは山ほどあるが、まずはこいつらをどうにかしないといけないようだ。それは、かがりも和泉も同じことを思っていたに違いない。
「あるじ!力が覚醒したんだから、君も魔法や魔法器を使えるはずだ!まずは、それに慣れるようにしろっ!」
「魔法…?魔法器…?」
どこかのRPGゲームで聞き覚えのある単語をかがりが言ってきて、思わず素っ頓狂な声をあげたが、すぐにそれらがどのようなものか彼女達を見て分かった。
要は、かがりや和泉のようなことを真似しろってことだろ。
「まずは、魔法器を出しなさい。武器が無くてはまともな戦いも出来ませんわ!」
「そうか、しかしどうやって出すんだ?」
「さっきアクセサリーを握って念じただろう。それと同じことをするんだ。」
かがりの言われた通りにアクセサリーを握り再び強く念じた。するとまた、聞いたこともない単語が頭をよぎった。
「稲妻の真剣 イクシオン・ブレード」
そう叫ぶと同時に、白いブローチに包まてたアメジストから電気がバチバチと飛び散り、しだいにアクセサリーから日本刀のような物へと姿を変えていった。
「こ、これが俺の魔法器?なんだかスゲェ…」
自分の武器に呆気に取られいた。ちなみにさっき俺が叫んだ「イクシオン」っていうのは、ギリシア神話に登場する人物で大神ゼウスの妻であるヘラを誘惑したため、タルタロス(冥界)に追放され火が燃え盛る車に縛り付けられて空中を回転される神罰を受けてしまった。最近では、某ゲームで雷の召喚獣としても有名だろう。
「あるじ危ない!!」
複数のコウモリの魔物が、大きな牙を俺に向けて噛み付こうと突進してきた。が、俺はついさっき召喚したこの魔法器「イクシオン・ブレード」で電撃と火花を散らしながら魔物達を薙ぎ払った。
俺の攻撃を食らった敵は、肉が焼け焦げた臭いを発しながら地面に倒れた。更に仲間が簡単に倒されて、呆気に取られていた残りの敵に向かって斬り払った。
さっきは、攻撃を避けるので精一杯だった相手に優位とまではいかないが、ここまで形勢が逆転するなんて。
「凄い、俺にこんな力があったなんて!」
「油断はなりませんわよ。今度は魔法を出してみなさい。」
「分かった。魔法も同じように念じればいいんだな!?」
「えぇそうですわ。わたくしがお手本を見せますからやってみて。」
そう俺に促しながら和泉は、自分の魔法器を前に突き出すと、その魔法器の先から見たことない模様が浮かび上がった。それは、魔法使いがよく描くと言われる魔法陣であった。
「アクア・ショット」
和泉が描いた魔法陣から勢い良く水流が飛び出してきて、上空に浮遊しているコウモリ達を撃ち落としていった。その水圧は、まるで家にあるホースからでる水よりは、消防車に付いているホースに匹敵していて、直撃した敵は完全にダウンしていた。
「なんつぅ水圧だ…」
「フフッ、まぁこれくらい朝メシ前ですわ。あ、今は夜でしたわね。」
あれ程のスゴ技を繰り出しておきながら、お茶目な冗談を言う和泉。本当に彼女が、数時間前迷子になってオロオロしていたのか?
「さぁ、ライヤさん次があなたがやってみなさい。」
「ようし!」
言われた通り和泉のように自分の魔法器を前に突き出し同じように強く念じた。言うまでもなく、魔法器が出現した時と同様不思議な言葉が頭をよぎり。
「サンダー・ショック」
イクシオン・ブレードの先端から魔法陣が描かれ、更にそこから電撃が広範囲に出現し、それを食らった敵は俺に斬られた時と同じような肉が焦げた臭いを発しながら倒れていった。
「おぉ、基本とはいえもうここまで魔法器と魔法陣を扱えとはさずがあるじだ。」
俺のぎこちない戦い方に素直に感心するかがりは、まるで初めて歩いた子供を見て喜ぶ母親のような顔だった。
しかし二人の様子を見ると、わざと本気を出して無いような気がする。俺が覚醒する前の二人の戦い振りをみると、二人の実力なら俺が参戦しなくても簡単に、この魔物の群れを片付けることができたはずだ。
どうも俺を聖獣を使った戦いに慣れるように敵と戦わせているみたいだ。そう、肉食獣によく見られる親が、我が子を狩りの練習をさせるため獲物を生きたまま渡すように。
うーんかがりや和泉にとっては、あのコウモリ達は獲物同然の雑魚扱いなのだろうか。俺にとっては、いくら力が覚醒して相手にしやすくなったけど、まだ手強い部類に入るけどな。
何にせよ彼女達が言っていたように、本当に俺が「最強の聖獣使い」なら今の俺はさしずめ駆け出しの「勇者」なのだろう。
「よーしっ!基本の戦い方も慣れたとこだし、早いとここいつらを片付けるか!!」
「なんとか片付いたようだ。」
さっきはあんなに強気なことを言っていたが、急な展開と慣れない力のせいでまともな戦いはできなかった。けれどなんとか敵を倒すことができたのは、かがりと和泉のフォローがあったからだろう。
「情けないですわね。あの程度の敵にもうばてましたの?」
和泉は、さっきまで敵とやり合ったというのに疲れの色もないどころか悠然としていた。やっぱり、彼女にとってはあのコウモリ達は雑魚同然だったようだ。
「あるじ、大丈夫?どこも痛いところはない?」
かがりも同様にまるでなんとも無かったように俺に駆け寄ってきた。冗談抜きにこの二人強すぎる。
「ああ、心配ないよ。」
多少の疲れとダメージはあるが、いくらなんでも二人には情けない格好はできない。俺は、大丈夫な素振りを見せたが、
「ーーーーーーーーーーーっ!!」
突然体中に激痛が走った。俺は不意に道路に寝転んでしまった。やっぱり、さっきの慣れない力と戦いが相当応えていたようだ。
「あるじぃー!」
「どこが、大丈夫なのですの!?」
俺を心配した二人は、咄嗟に俺の肩を片方ずつ担ぎ挙げた。
「くぅ…今の俺、メチャクチャ格好悪ぃ…」
今日知り合ったばかりの美少女二人に敵から助けられただけでなく、こんな醜態を晒してしまうなんて…
「穴があったら入りたい」とは、今の俺にある言葉だな。
「無理もない。あるじは私達と違って、今日初めて聖獣のことを知って、初めて聖獣の力と魔法器を使って戦ったんだ。」
かがりが、優しい口調で俺をフォローしてくれた。そして、かがりが言ってくれたおかげで、俺が質問したかったことを聞き出すことができそうだった。
「なぁ、その聖獣って何者なんだ?そしてかがり、なぜ君は俺のことをあるじと呼ぶんだ?」
突然の質問に対しかがりは一瞬はっとしたが、和泉が横から声をかけた。
作品名:四神五獣伝一話 2/2 作家名:トシベー