四神五獣伝一話 2/2
「なんなんだ。何がどうなっているんだ!」
すっかり状況が読み込めず、パニックになりそうな気持ちを落ち着かせ、俺を襲った犯人に目をやった。
「コ、コウモリ!?」
翼手類のような腕を羽ばたかせ、小さな音も聞き逃さない程の大きな耳、やや潰れ気味の鼻に口からは鋭い牙を覗かせている。
俺を襲った犯人は、間違いなくコウモリに酷似していた。しかし、ソイツらはオオコウモリ類とまではいかないが、日本に生息しているコウモリよりも一回りも二回りも大きかった。
「オイオイ、俺の知らない間にこの神楽町に、人間を襲うコウモリが住み着くようになったのか?」
コウモリは、洞窟を住処にしているので、あまり見かけない印象があるが、実際は夜の公園や神社などに飛んでいる姿を見ることができる。更に言えば、温・熱帯に九百種以上も分布しているのだ。だから、変わった習性を持つ新種のコウモリが発見されても可笑しくはない。が、コイツらはどう見ても、普通のコウモリには見えない。まるで、「魔物」のような…
「グギャーーー」
俺が相手を観察(分析)していると、再び二匹で俺に襲いかかってきた。
「しまった!さっきよりもスピードが早い!!」
奴らの攻撃を食らいそうになった、その時だった。
「ファイヤー・ボール!!」
どこから聞き覚えのある声がした瞬間、炎の玉が熱風と共に俺の体を通り過ぎたかと思うと、体当たりを仕掛けてきたコウモリもどきに直撃した。炎の直撃を喰らった二匹は、そのまま放物線を描いて吹っ飛んだ。
「間に合った。」
俺の元に駆けつけたのは、銀髪の少女…
「…その声?大道寺さん!?」
銀髪の少女は間違いなく、俺がここに引っ越して早々出会ったかがりであった。しかし、今の彼女の姿はお昼に会った時と明らかに雰囲気が違っていた。
彼女が身に纏っている服は、動きやすそうな軽装であったが、どこの学校かはわからない赤を基調とした制服のような衣類を身に纏い、マントのようなものを羽織っていた。その姿は、俗にいう魔法少女という言葉がなによりもあっていた。そして、彼女の姿はどこか神々しくて赤い光のようなものがキラキラと煌めいてるようにも見えた。
突然の再開に戸惑う俺だが、彼女の方は、改まって俺に自己紹介をした。
「改めまして私は、火の聖獣を引き継ぐかがり。」
「せ、聖獣?」
「そう。もっと詳しく話したいけど、今はそんな時間はないみたい。」
突然の出来事に、まだ状況を把握しきれていない俺をよそに、かがりは再び敵に向かい合った。
さっき俺を襲った二匹の悲鳴を聞きつけたのか、今度の敵の数は十数匹はいる。数で言えば彼女の方が圧倒的に不利だ。
「く、もうこんなに沸き出したのですね。間に合ってよかったですわ。」
ふと、もう一つの声が聞こえてきたが、その声の主が誰なのか姿を見てすぐに分かった。
「か、観音さんだよなっ!?」
「わたくしが、和泉以外に誰に見えますの?私は水の聖獣の化身の和泉ですわよ。」
そう俺に強気に返事を返した彼女は、ショッピングモールで会ったオドオドした態度とは打って変わって、そこには自信に溢れた顔を浮かべている和泉の姿があった。今の彼女が、本来の彼女なのであろう。
そして、彼女もだ。和泉もショッピングモールで会ったワンピース姿から青を基調とした「魔法服」のような衣を纏っていた。
それに和泉もまた、かがりと同じく「聖獣」という単語を口にした。一体聖獣とは何者なんだ。
狼狽している俺をよそに、二人は敵の群れに向かっていった。
「待たせましたわねかがり。」
「いや、私も今駆けつけたところだよ。」
「それにしても、ライヤさんがわたくし達と同じ聖獣使いだけでなく、あの稲妻の聖獣を司っているなんて驚きですわ。」
「私も、驚いたよ。今日出会ったばかりのライヤ君が最強の聖獣使いだったなんて。これから一緒に『あるじ』をお守りしよう。」
「ええ、でもまずは、この魔物共を片付けなければ。」
「紅炎の長槍 フェニックス・ランス」
「水氷の弓矢 アスピドケロン・アロー」
言う成り二人は強い光を放ったかと思うと、かがりは自分の身長ほどもある槍を、和泉は学校の弓道部が用いるような弓を携えていた。
「はぁぁッ!!」
かがりは、掛け声を上げながら槍を振るい、襲いかかる敵を次々に倒していく。槍は振り回される度、炎の帯を引き火の粉を巻き上げていた。
「せやぁぁッ!!」
一方後方でかがりの援護をしている和泉は、手に持った弓矢で次々に敵を射止めている。しかも驚くべき正確さで、その腕は正に師範代といってもいいほどだ。そして、彼女の射る矢には冷気が帯びており、矢が飛んだ軌道は冷気が散りばめられ、まるでそこだけダイヤモンドダストが起きているようだった。
なんなんだ。一体はなにがどうなっているんだ!?
俺は、目の前の光景に目を疑った。
おぞましい数の魔物と呼ばれる「それ」らは、意思が感じられない視線をこちらに向けてきた。見た目からは、全く凶悪性を感じないが、やつらから放つ殺気はこいつらが常識の範囲内の生き物でないこと再確認するには充分だった。
時間は十時を過ぎようとしていた。いつの間にか周りには、明かりが灯っている民家は一軒も見当たらなかった。田舎町とはいえ、まだ正午にもなっていないのに、完全に消灯してしまうのはどう考えても不自然だった。まるで、自分が見知らぬ空間へ迷い込んだような感覚だ。
静寂している周りとは裏腹に、俺と対峙している怪物達との間には、一触即発の「魔力」が渦巻いていた。
しかし、もっと驚くことにその魔物の群れに果敢にも飛び込んでいく影があった。
俺と同じ年齢とおぼしき少女が鋭い口調で俺に向かって叫ぶ。
「何ぼさっとしていますのライヤさん!」
その後に、先ほどと比べやややわらかな口調の銀髪の少女も叫んだ。
「あるじ、早く!」
二つの影、いや二人の少女は俺に声を掛けてきて、俺も戦うよう促した。
「戦うっていったって、いったいどうすれば…」
俺は、状況が飲み込めず狼狽していた。そんな俺に励を飛ばすように銀髪の少女が再び叫んだ。
「あるじ!そのアクセサリーを握って強く念じればいい!」
「これを…?」
俺は、慌ただしく今日身につけたばかりのネックレスに付いている純白のブローチを握りしめた。そして、言われるがまま彼女達の言うとおりに念じたが…
ブローチの中に紫に輝く宝石が力強く光りだし、ふと、頭に知らないはずの言葉が自然と浮かんできた。
「古の聖獣よ、我に従い力を与えよ。雷鳴を轟かす稲妻の聖獣!」
すると突然体中に今まで感じたことがない力があふれ出してきた。その力は、まるで稲妻のように体中に伝わってきた。否、実際俺の体からバチバチと電気を発していた。
そして、体から激しい光が溢れ出していき俺の体を包み込んだ。
「な、なんだ!!俺の体どうかしちまったのか!?」
ますます混乱していく俺に対して、かがりは心配ないというような視線を向けた。
実際、俺の体には何の痛みもなくむしろ柔らかい抱擁に包まれた感じさえした。
「大丈夫。自分の力が覚醒していくんだ。」
作品名:四神五獣伝一話 2/2 作家名:トシベー