四神五獣伝一話 1/2
聞き覚えのある声と、見覚えのある影が、俺に向かってきた。それは、さっき遅い昼食なしをとった後、うっかり離れてしまったかがりとリナ従姉さんだった。
「こんな所にいたのね。もぉ、いきなりいなくなったから心配したじゃない。」
迷子(実際迷子だったんだが)になっていた我が子と、再会し安堵したような顔で俺に面と向かってきたリナ従姉さん。本当に心配かけて悪かったなぁ…
「ごめん、ごめん。実は、俺も迷子だったんだけど、このショッピングモールで迷った子を、出口まで送っていた所なんだ。」
俺は、二人に今までのいきさつを話した。
「申し訳御座いません。お二人にも御迷惑をおかけしました。」
さっきまで迷子だったから、まだオドオドした様子だけど、和泉がかがりとリナ従姉さんに対し深々と頭を下げた。
「あらやだ、私達は特に何もしてないわよ。」
和泉の態度に、逆にリナ従姉さんが戸惑っているようだ。そして、顔を赤く染めている。流石のあけすけな彼女も、この手の人間に対応には慣れていなようだ。
それに対しかがりは、和泉を黙って見るなり、
「え!?もしかして和泉?」
え!?いきなりかがりが、和泉に向かい親友のような態度で名前を呼んだ。
「そういうあなたは、かがり!?」
今度は、和泉がかがりに向かい、これまた親友のような態度で名前を呼び返した。
そして、
「偶然だね。こんな所で会うなんて。」
「あなたも、この神楽町に来ていましたのね。」
と、言いながらいきなり抱き合ったかがりと和泉。訳が分からないので、二人に質問をした。
「なぁ、二人って知り合いだったのか?」
「うん、私達は二人は、幼馴染みなんだ。」
「小さい頃からのお付き合いなのですわ。」
「幼馴染みなのか。じゃ、ここで会うのは本当に偶然なんだな。」
「そうだネ。もっと言えば、私達はハーフなんだ。自分で言うのもなんだけど、ヨーロッパ国の名家の生まれなんだよ。」
「ま、マジで!?」
オイオイ、今日出会ったばっかりの二人の美少女が、実はとあるヨーロッパの国にある。お嬢様なんて、どこのメーカーが制作したゲームだよ。確かに、二人の銀髪赤眼と金髪青眼はどこか異国風の雰囲気が出ていて、和泉のあの上品なたたずまいもお嬢様だからと言えば納得出来る。
それにしても、お嬢様が一人で来るなんて考えられないな。
「でも、そんなお嬢様が一人でこんな人で賑わうショッピングモールに一人できたのか?」
「そうなんです。実は、わたくしもお連れと一緒に来たのですけど、店内を見て回っているうちにはぐれてしまったのです。自分がどこにいるのか、分からなくなっているところにライヤさんにあったのです。」
「つまりライヤがいなかったら、ずーと店内で迷子のままだったわけね…」
今まで俺達のやりとりを見ていたリナ従姉さんが、ようやく間に入ってきた。さっきは和泉に対してあがってたのに、今では二人のリアルお嬢様達を目の前にしても落ち着いた態度で接している。やっぱり、彼女のあけすけさは半端じゃない。
「出口に案内されいる間に、見つかれば良かったのですが…」
「そう簡単に見つかんないのは、あの人混みで分かっただろう。」
モールから出た後も、辺りをキョロキョロしていたのは、そういう理由か。
「その連れはどんな人なんだ?」
銀髪のお嬢様が、幼馴染みである金髪のお嬢様に話を続けた。かがりも、幼馴染みの悩みを解決することにしたようだ。
「年は、だいたいそちらのお姉様くらいで、こしまで伸びた水色の髪をしていまして、後はメイド服を着ていますわ。」
「…うーん…」
俺は、考えるふりをして呆れることにした(もちろん和泉には気付かれないように)。メイド服なんてどこのコスプレイヤーだよ。そんな目立つ格好が見つからなかったなら、俺達は和泉の連れがいる場所とは反対の所にいたってことじゃないか?
「二人は、観音さんの連れの人らしき人物を見なかった?」
かがりとリナ従姉さんは、互いの顔を見つめ合ってなにやら難しい顔をしている。
「それって、間違いなく…」
「ええ、間違いなさそうね。」
「まさか、わたくしのお連れを見ましたの!?」
二人の様子を見て、和泉が興奮気味に食いついてきた。
「うん、さっきインフォメーションの受け付けにいたよ。まだいるかもしれないから行ってみよう。」
かがりは、そう言うなり和泉の手を取って、インフォメーションがあるショッピングモールの中に入っていった。
「ライヤ。私達も行くわよ。」
そして、リナ従姉さんもインフォメーションへと向かった。俺を連れて…
また、あの中に行くのか。今度は迷子にならないよう、しっかり後を付いていかなきゃ…
俺達は、和泉の連れのメイドを捜すため再びショッピングモールに入り、さっきメイドがいたインフォメーションまで来たのだが、そこには既に一般人の姿しか見当たらなかった。
「すみません。先程、ここにメイド服を着た女の人が来ませんでしたか?」
そのメイドの主人である金髪のお嬢様が、受け付けのお姉さんに声荒げに話しかけてきた。
「そのお客様なら、ついさっきここを立ち去っていきましたよ。」
「一足遅かったな。」
かがりが、悔しそうに舌打ちをした。
「ゴメン和泉。」
「気にしないで。受け付けの人の言う通りだと、まだ遠くに行っていないはずですわ。」
確かについさっき立ち去ったなら、そんなに遠くには、少なくともまだ一階にいるかもしれない。それに、和泉の言うような風貌だと、遠くにいても目立つはずだ。
「とにかく、辺りを探そう。」
俺が、意見を言ったが、
「いや、捜す必要ないわよ。」
と、リナ従姉さんが止めた。その理由も、彼女の目線の先を見てすぐに分かった。
明らかに周りよりも賑わっている人集り。今の時間は、特にイベントもやっていないはずだ。そして、その人集りの中央にいるメイド服を着た女性。
「スイ!こんな所で何をやっていますの?」
メイドの姿を見るやいなや、和泉が人集りの中心にいる女性に駆け寄った。
「お、お嬢様!こんな所にいましたのね。」
女性も和泉を見つけ、彼女に向かってきた。
「心配したのですよ。迷子になったら、インフォメーションの所に行くよう言ったじゃないですか。」
「こんな広い施設の中で、ただインフォメーションに行けなんて言われても、行けるはずがありませんわ。」
二人は、再会した途端迷子になったことをについて互いに口論したが、無事に見つかったので、
「でも、よかったですわ。無事に見つかって。」
「これからは、気をつけてくださいね。」
と、安堵した顔で微笑みあった。
「それにしても、どうしましたの。この人達は?」
「それが…」
「さっき、あの子のことを『お嬢様』って言ってたな。」
「本当にメイドとお嬢様っているもんだな。」
世間離れした二人を見慣れていない一般人と、二人のような関係に憧れていそうな興奮気味のA系の人種が、金髪のお嬢様と水色の髪のメイドをマジマジと見ている。
「ちょ、ちょっと見世物ではありませんのよ!」
作品名:四神五獣伝一話 1/2 作家名:トシベー