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詰めの一手・問題編

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その渋川に代理実行局の内部告発の真似ごとをさせよう、と。
「ですから、代行に所属しているわけでもないので知っている範囲内でお話しますよ」
「でも、そのなんだ。なんか悪い気がするね」
 忠義、正確には新聞部部長が言い出したネタなのにいざという場面で怖気づく。
「ええ。ですから、知っている範囲内でなら話せる、と言ってるじゃないですか」
 しかし、うんうん唸る忠義はそれをよしとしない。
「まったく、手間のかかる人だ。では、こういう事にしましょう。対価をください」
 対価? と、馬鹿っぽく忠義はオウム返す。
「そうです。私の情報の対価を貴方が払う。どうですか、売買契約っぽくなってきましたよ」
 なんなら、と続け契約書の作成まで提案してきた。
「いや、そこまでしなくていいよ」
 完全に渋川の、『打たず』のペースで話が進み、
「じゃあ、商談成立ですね」
 では彼が証人ですよ、と入り口付近でずっと待機している少年を指す。そして、彼にお使いを頼む。

ドアの戸が閉まる音が響き、部屋に二人以外いない事を確かめてから、
「では、先に対価を提示しますね」
 渋川は一拍置き、
「ちょっと付き合ってください」
 何に? と、忠義は思ったがそれだけでいいのか、と安心もしていた。もっと、無茶な請求をしてくると思ったのだ。
なにせ、去年あれだけ一人渋川を持ち上げて、その神輿を落としてしまった張本人なのだから。
「本当にそれだけでいいの?」
「それ以上を望めませんから」
 財布的にだろうか、と一瞬考え込む。

そして、これ以上レートをあげられる前に話しを聞いたほうが得策では、と黒い自分が囁く。
「わかった。約束は守る。ちょっとっていうのが、どの程度か分からないけど財布が空にならない程度に付き合うよ」
「そんなにお金の事は気にしなくていいと思いますが……まぁ、合意の上ならオッケーかと」

 若干認識の齟齬がある事を感じるが互いに気にしない。
「先輩は何が聞きたいんですか? 先に言っておきますが、代行は別に教員と癒着もしてなければ、生徒会を脅しているわけでもありませんからね?」
 忠義は余り褒められた表情をしなかっただろう。
「なんですか、その不細工面は? 期待はずれでしたか?」
 と、淡々と言葉を続ける。

「いや、流石にそこまで露骨な事はないだろうな、とは想像してたけど……中の人にそれを言われちゃうと報道ロマンってものが、ねぇ。なくなっちゃうというか」
尻切れトンボみたいに、段々語尾が消えていく。
「でもさ、だからこそかな。今みたいに代理実行局が力をつけた理由が知りたいよね。最初から力を持っていたってわけでもないみたいだし」
 代理実行局が出来たのは、今から三十数年前くらいだったはず、と脳内のデータを探す。
「確かに、設立当初にはありませんでしたしね」
 渋川は同意する。
作品名:詰めの一手・問題編 作家名:浅日一