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あぁ、麗しの君

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四谷夏那はとても緊張している。
なぜなら彼は今彼が熱愛している遠城寺小夏と二人きりでプールに来ているからである。
…その小夏はといえば、白いふわっとした水着を着てお腹あたりには浮きわをはめ、四谷にぴとりとひっついていた。
そして白い肌を小刻に震わせ、綺麗な水色に白のみずたま柄の浮きわをぎゅっと握った。
一方、四谷は沸騰した熱湯を頭からかけられたような真っ赤な顔になってゆらゆらと揺れている。
その姿はこの爽やかなプールサイドには全く似つかわしくない空気をかもしだしていた。
四谷はしがみつく小夏にぐらぐらしながらも思い返す。
頭の上でそんな四谷を嘲笑うかの如くギラギラと照る太陽がやけに熱い。
四谷は目が回りそうな己の状況に言葉通り目を回しながら考えていた。

(…なっ何故俺はこんなことに…。あぁ、もうプール入る前に死んでしまう…。)

…そうそれは、あの夏の日の夏の命令から始まった。






「それじゃ、早速だけど親睦を深めてもらわなきゃね。」

その日、夏はさも愉快そうに言い放った。
四谷がちょうど夏から夏休みの計画について聞かされ後のことだった。
夏が言うことにはこれから最低週に2回は遊びに来てほしいという。
四谷はふむふむと素直に聞きいっていた。

「…親睦、かぁ…追い掛けっことかですかねぇ…。」

四谷は波打ち際で小夏と仲良く追い掛けっこをする自分をうっとりと想像する。
夏は別の意味にとったらしく、そんな四谷の発言をはははと笑い飛ばした。

「別に小夏に気をつかわなくていいのよ、そんな遊びばっかりじゃ四ッ谷怪談君も疲れちゃうでしょ?」

四谷はいーえ全然そんな滅相もありませんっと叫んだ。
白いワンピースをはいて逃げまとう小夏がまだ脳裏にちらついているようだ。目が少しぼんやりとしている。

その時、それまでつまらなそうに話を聞いていた小夏が突然立ち上がった。
四谷は途端に蒸気機関車の様に真っ赤に膨れ上がる。
小夏はそれにまけじと顔を赤くして叫んだ。

「プールはだめよ!」

四谷は面食らった。
小夏のその台詞がいささか謎だったせいもあるが、その物言いがいかにも駄々をこねる子供のようだったからである。
夏は慣れた目付きでその様子を見ていた。
そしていましめる様に、

「小夏、座りなさい。」

と言った。

小夏の顔はますます赤くなる。
むんっと唇を噛み締めたその顔もなかなか新鮮で四谷は感心していた。
やはり美人はどんな顔でも美人だなぁと呑気に窺っている。

「いやよ!いやよ!ぜったいにいやよ!」

「小夏。座りなさい。」

「小夏はぜぇーったいに行かないからね!!」

「四ッ谷怪談君、小夏を座らせて。」

夏は静かな物言いのまま、ぴしりと四谷に命じた。
四谷は焦りつつもその命令に従おうとする。
ハッと息を吸い気合いを入れるが、小夏の小さな肩を掴んだだけでぐらりと倒れそうになっている。
夏は真顔で「四谷ファイトぉー」とのたまっていた。
四谷は再び顔に力を入れ、…腕には入れられなかったため…、小夏をふんっと座らせた。
小夏は不満げに四谷を押し返す。
四谷が力を緩める。
小夏が立つ。
四谷が顔に力を入れる。
小夏が押し返す。
四谷が力を緩める。
小夏が立つ。
四谷が…の、ところで夏がこの無駄なやりとりに終止符をうった。
バーんと机を引っくり返したのだ。
ガチャーンガチャーンとコーヒーが吹っ飛んでいく。
四谷と小夏は同時にソファーの上に引っくり返った。

「そんなにプールが嫌なら…行け!!!!!!!!」

…部屋中が静まり返った。
四谷は意味が解らず間抜けな顔をしている。
小夏は青い顔をしてさらに唇をきつく噛み締め、夏を睨んだ。
夏はまったく動じないまま、四谷にキッと向き直った。

「四谷夏那!」

「はいっ」

四谷はびくりととびあがった。
睡眠学習中に突如先生にあてられた時の様に心臓がドキドキしていた。
夏は馬鹿真面目な口調で四谷に命じた。

「来週の水曜、遠城寺小夏をプールに連れていきなさい!!」

「ひあいっ」

思わず返事をしてしまう四谷。
ちらりと小夏をみやると、かなりご立腹の様子でそっぽを向いていた。
四谷は哀しさのあまり気絶しそうになった。

…そんなわけで…どんなわけかよくわからないが…四谷と小夏はプールに行くはめになったのである。
作品名:あぁ、麗しの君 作家名:川口暁