Light And Darkness
「往生際、悪い。いまどきユーレイになったって、始終好奇の目ぇ向けられるだけだろうよ。やめとけやめとけ。そこらの低俗な霊能者なんかよりゃ、おれたち良心的なんだ。ききわけないこといいなさんな」
「そろそろお終いにしましょう。これは私たちの『務め』なのですし」
「そうだ、な」
――クゥゥソォォォォ!
――ナニガ……、ナニガ務メダ! 嘘ツキ! 嘘ツキ! 高潔キドリノ背信者!
――生キ残ッタノハ貴様ラダケノクセニ! 不様ナ敗北者!
不様な、敗北者――。
生き残ったのは――。
ぴくり、と彼らは肩を揺るがした。とたん、緊縛を解こうと、そいつらはまた必死に暴れる。けれどもそれは、そいつがつけいることのできるほどの隙ではなかった。動揺らしきものは。疾くまた不遜な余裕のもと隠れてしまう。否――隠さなくては、ならなかった。
そんな言葉には惑わされない。責め苦の怨嗟をひとつひとつ、真に受けていたら身がもたない。
苦悶の足掻きは聞き届けてやらない。
罪人の申し開きには、意味がない。
ふたりは夜の闇の中で、静かに両手を奇妙な形に組んだ。
『印』というそれは、破邪顕正を象徴し宣誓する『刀』の具現である。『力』を生み出すもの。『浄化』という安らかで、そして優しい『力』だ。『死』を認められずに叫喚し現世にしがみつこうとする者たちの、拠り所ない魂を鎮め、
死者のゆく場所――黄泉へと引導を渡してやる慈愛の『力』なのだ。肉体という名の帰るべき器を失った魂は、いつまでもこの世に止まっていてはいけない。
いられない。
若い神主と会社員――じつに奇妙なとりあわせのふたりは、呼吸を合わせ、気合いを込めて、精神をひとつに高く宣言する。
これらの、道を違えた『魂』たちの罪を自ら背負い、浄化し、黄泉の国へ、死者を癒す女神のもとへと送ること。迷わずうまれかわることができるよう。
ざ、と風が割れ、鼓膜が千切れるほどの刹那の静寂が訪れる。
そいつらにとっての終末への宣告は、現実へと変わる。
そこに満ちてくる得体の知れないモノに向かって、激しい恐怖が沸き上がる。
発狂するほどの戦慄。それを、討ち滅ぼす強靭で清冽な力。逃れられない、呪縛。
そいつらが眼に焼きつけた最期の景色は、白い神祇衣に身を包んだ少年と、背広姿の青年が、ひそりと静かに微笑む姿だった。
作品名:Light And Darkness 作家名:さかきち@万恒河沙