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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 優しい、労うような瞳をしていた。慈しむような、それでいて厳しいまなざしを。


 静まり、闇に還った林の中で、悠弥は月をまた仰ぐ。白々とした輝きが、なぜか胸を刺した。
 少年――その神名を、天津久米命、と。
 対して青年――同じく 天忍日命 、と。
「お前と、おれが再会してからもう――四年になるか」
 義貴は乱れた前髪を押さえながら、少年を振り返った。
「そう……ですね」
「……ときどき、不安になる……」
 盟主・倭建命を筆頭に、地神殲滅、という任務を双肩に戦ってきたのは、五人。
 だけれど、彼等は百年前――互いにわかたれてしまった。
 やっとの思いで再会を果たし、ここにいるのはたったの二人。どれほど呼び掛けても、どこからも答えは返ってこない。それが、悠弥の胸の奥を軋ませるのだ。
 敵将・建速須佐鳴命の消息もまた同じだった。彼が率いていた出雲神族の者たちの行方も杳として知れずのまま……いったい彼等は何処へ消えたというのか。
 お陰でここ数十年は彼らの支配を離れた厄介な化け物どもが、いらぬ騒ぎを起こすばかりだった。もっとも、今夜のような後始末もまた彼らの仕事のひとつではあったけれど。
 それにしても――。
 それだけ痛手も大きかったということだろうか。あの時、気も狂わんばかりの泥沼の戦局の中でそれぞれが神霊とその心魂に受けた傷が。
 悠弥は目を伏せた。憶い出したくはなかった。
 最悪の、地獄の日々。誰もが疲れ切って、何もかも捨ててしまいたかった、灼熱の……あれは暑い夏だった。
 でも、まだ終りではない。
 それはあまりにも静かすぎる予感で、二人の胸を塞ぐ。修羅の戦は、まだ終ってはいない。
 何も終わってはいないのだ。
「……静かすぎて、ぞっとする……よな」
 悠弥は、心細そうにそう呟いた。
 風が強くなって、梢のなりが気弱な呟きをかき消した。義貴の耳には届いただろうか。
 ふと、悠弥は顔を上げたが、義貴の表情は見えなかった。
「……行きましょうか。明日も学校があるのでしょう?」
 急に現実に――高崎悠弥の現実に引き戻されて、悠弥は肩を竦めた。
「そうだった。お前だって、仕事だろ」
「そうですが、……送りますよ。自宅まで」
 ふたりは、何ごともなかったかのように、そして歩き出すのだ。


 蒼い月は、終焉のはじまりの予感。
 最期の悲劇が幕を開ける。