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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 清廉の光が。
 ――炸裂した。


 ――帝。
 ――……天照の帝。
 ――姉上――。
 建速須佐鳴命――反乱分子として追われる彼が、宿体という仮初の躯を手放すとき、いつも脳裏に垣間見るのは美しい姉神の姿だった。
 高天原の天神を統べる、あの高貴で峻烈で美しい姉の姿が、瞼に焼きついてはなれない。
 ――やまと、たける……。
 高天原の天照の面影を残す、少年神。かの女神の命を受け、討伐軍を率いて戦ってきた者。
 ――勝利するのは、我々だ……。
 閃光があふれ、滂沱の洪水となってあたりを覆い尽くしていった。
 少年と、青年は……その光の中へと、消えていった。
 時は世界大戦へとひたはしる日本。
 狂気の時代の、狂気の願い。
 かつてかれらは豊葦原と呼んだ、瑞穂の国。
 絶望の光の中でかわした宣誓は、終焉を迎えるための言霊。
 この神の国は、やがて戦争に負け、焦土と化し、そして狂気から立上がり黎明を迎えることになる。
 彼らの神霊が、眠る間も、流転を繰り返しながら。
 
     ☆

 ――百年――。
 ――天照の名にかけて。
 ――伊勢神族が勝利する……!!


 そしてあれから百度目の、夏が来る。


 百年前、倭 建 命の自刃をもって瓦解し、伊勢神族の討伐軍は、散り散り行方不明になった。
 伊勢神族を率いた少年神・倭建命の消息は、いまだ杳として知れない。
 月が、蒼い。
 それは凍える予感をおもわせた。細く、鋭い三日月は、蒼天に浮かぶ刃。いまにも、その怜悧な刃は何かを切り裂いて、そのかえり血で鮮烈な真紅に濡れはじめようとしている。そんな気がする。
 季節は青い初夏の頃。
 奥多摩の山中である。
 小さな社の前に、少年と青年の姿があった。
 青い闇の中に、胎動を感じとる。夜は静かに大地を包みこみ、深く遠く、紺青に澄み渡る。
 撒き散らされる月明りの澄んだ光のなかに、ひそやかに滲みだす、戦慄に似た緊張。
 風はどこか湿気を含んで温く、肌を舐めるようにまとわりついて抜けてゆく。
 嬲られる髪を右手で気怠げに梳き上げて、視線を夜空へと流す、ひとりの少年。
 名は、――現世名は、高崎悠弥。
「……あきらめろ」
 終末を告げる声で悠弥はそういって、するりと手を差し延べた。