Light And Darkness
憎悪した。憎くて憎くて、どうしようもなく憎くて、二人は互い、果てしなく傷つけあった。
それがもっとも、人を釘づけにして、解放することを知らない感情だ。
こんなに長い、遥かな時間の中で。それは真に真実だった。互いの存在だけが、変わらぬ真実だった。
滅さなくてはらない。その切迫した思いが、ふたりを縛ってきた。
そこにあるのは執着のみ。
夢にまで見た、最期の瞬間に焦がれながら、須佐鳴は闇の深さを想った。
涙があふれて風に煽られ、迸る。
――お前が、それを望むというなら。その『宣誓』……受けて立つ。
これが、私たちの辿り着くべき最期の場所になるなら。夢見ることさえ許されなかった闇の中には一条の光すら見えなかった。この命を断ち切って。消滅を向かえたときには……黄泉の女神は慈愛の安らぎをくれるだろうか。
――百年……。眠ろう。お前がやがて覚醒めるまで。
その言葉は己の内に向かって刻みつけた言葉。
腐り切った精神に根を下ろすおよずれた妄想を滅ぼすための呪文。
もう。
何も彼もたちきって。
捨ててしまって。
生まれ変わりたい。
もうなにもかも忘れてしまいたい。許してほしい。もう耐えられない。
――己の神力から召喚した、光の剣。
十握草薙の剣。
須佐鳴と倭建――二柱の少年神を神代からつなぐ神器。
神代、かつて須佐鳴の手からやがて倭建の元へと渡った、『草薙』の名を冠する剣。
光り輝く太陽の女神――天照の神器。
穢れたものを焼き払う、浄化の光だ。
けれどふたたび須佐鳴の手に渡ってから、この剣はあまりに多くの血を吸った。狂気の夢を、追って。
罪を犯し、天神族の座を奪われ、神の郷・高天原から追放を受けいまや反逆者として追われる身になって久しいこの身には、ひどく似合いの凶器なのだろう。
――姉上――。
反りのない直刀は、鈍い光を放っていた。
青年は、唇を引き結んで切っ先を見つめて、それから一瞬の後に、剣で己が身を貫いた。鈍い刃の光が、胸の左下の奥に飲み込まれるように埋もれた。左の腕に、骸を抱いたまま。
「……っ……」
熱――。
痛み……光の神器が、この身を灼く。
焦がれる、真実の死。
込み上げてくるのは、鮮血の味だろうか。
「だがそのときは、貴様も一蓮托生ぞ……!!」
膨脹する、光……閃光!
穢れを飲み込む光の爆流。
作品名:Light And Darkness 作家名:さかきち@万恒河沙