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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 遠い故郷だ。
 もう還ることすら望めないような気すら、する。神の国・高天原。
 豊葦原に生まれ落ちた、その瞬間からこの眼に焼きついたのは戦ばかりだった。けれど、それが天の帝の望みであり、課せられた命であるならばと、少年は永遠の生を選び取った。最初の死の淵で、黄泉の女神の胸で眠ることではなく、光の女神の手を取ったのだ。
 そして与えられた、永遠の魂――天の神座。
 永遠の時を刻む魂は、死を迎えることを許されず、生まれ変わりを繰り返す。
 一年。
 百年。
 千年。
 天照の名の下に、出雲の須佐鳴命が膝を屈するまで。
 ――汝、我の手を取るや? 倭 建――。
 正気も失せるほどの、遠い時間。
 記憶に霞んでゆく、はじまりの時。
 幾度も、幾度も、幾度も――。

      ☆

 どうか……終止符を。


「……これで、最期だ……」
 少年は、ぎらりと敵意に満ちた瞳を上げた。鳶色の瞳の中に紅蓮の意思が燃える。深い――深すぎる苦悶をも押し隠して、ただ。まっすぐに彼を見つめて。
 対する彼は、静かに瞳を伏せる。
 神代に始まった、伊勢神族と出雲神族の戦の中、生まれ変わるたびに新しい『名前』を貰ったけれど……穢れた大地にたたずみ、天を仰ぎ続けた少年の真実の名は、遥かな昔からただひとつ――倭 建。
 対峙する出雲神族の反逆者の名は、建速須佐鳴命。
 何度姿かたちを変え、巡り逢い、傷つけあっただろう。
 神代、天照に反旗を翻した、反逆者が率いる反乱軍。
 対して倭建が率いるは討伐軍。
 永き時の果てに歪んでしまった神々の魂。
 まじわりをもたない、光と闇。
「……すべてを……っ、終らせよう……!」
 喉が掠れて、その声はひきつった。
「……っ……ぐ……」
 少年は、自ら手にした短刀を、目の前の敵ではなく、己の胸に突き立てたのだ。
 青年――須佐鳴命は目を瞠った。
 ――自刃する、というのか……!?
 飛び散ったのは、真っ赤な花びら。真紅の、花が散る。
 生暖かいその飛沫が、ぽたぽたと落ちた。目の前の景色すべてが、ゆっくり鮮やかな真紅に染め上げられてゆく  。
 刹那にして命を奪う枷に囚われて、少年はその場に膝をついた。
「や……倭健……っ!」