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戯曲 フォビア

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ルイス
 ……僕はあの人を解放してあげたかった。
 早く大人になりたいと……いつも自分を呪っていました。
オーギュスト
 それは暗に私を非難しているのかな?
 大人であるのにも関わらず、彼女を救えなかった私を。
ルイス
 (青ざめながら)いえっ! 決してそのような事では!
オーギュスト
 (微笑をたたえて)いいんだよ。事実だ。私では彼女を救えなかった。
ルイス
 (姿勢を正してオーギュストを見つめる)
オーギュスト
 (ルイスの視線に答える)彼女の生涯そのものを買占めようだなんて、
 何度思ったか分からないよ。
 彼女が他の男に抱かれるこの館ごと、私の所有物にしてしまおうだなんて
 何度考えたか知れない。
 私は彼女の為ならば、身分も立場もありとあらゆるものを捨てる覚悟は
 (拳を握りしめる)覚悟なんて必要としない程の、遠い昔から持っていた。
ルイス
 それじゃあ……何故……。
オーギュスト
 怖かったのさ。彼女との関係の変革が。
 このままずっと彼女を買い続ければ、いつだって彼女に会える。
 彼女をこの腕に抱きしめる事が出来る。しかし彼女と生涯を共にするとなれば、
 私は私の全てを捨てなければならない。妾ならともかく正妻に迎えるとなれば、
 私は一族全てから勘当を受けるだろう。そうなった時、彼女は?
 なんの力も権力も無い男に彼女は何て言うだろう?
 (自嘲ぎみに笑いながら)愚かだろう? 惨めだろう?
  伯爵だなどとは言っても愛した女一人を正妻にも出来ないような陳腐な男なんだよ。
ルイス
 (伯爵を憐れむかのように、だがしかし睨みつけながら)……。
オーギュスト
 君の言いたい事は分かる。
 それでも恐れずに行動していれば、彼女は殺されずにすんだのかもしれないからね。
ルイス
 ……一体誰があの人を。
オーギュスト
 分からない。結局の所は、もう誰にも分かるまい。
 さぁ、君も一緒に行かないか?
ルイス
 え?どこへ……。
オーギュスト
 彼女が好きだったあの丘へ。この花を届けに。
ルイス
 ……はい。

                 (二人退場する)
作品名:戯曲 フォビア 作家名:有馬音文