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戯曲 フォビア

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        (オーギュスト黒い衣装で登場)

オーギュスト
 (俯きながら娼館の前まで歩く)………っ。
オーギュスト
 (花籠を持つルイスを目に留める)君、そこの君。
ルイス
 はい。なんでしょう?
オーギュスト
 その花はいくらかな?
ルイス
 あ……はい。600です。
オーギュスト
 (1000金貨一枚を出し)そうか、ならばこれで全て頂こう。
ルイス
 え? あ、僕は……。
オーギュスト
 ん? ああ、なるほど。そういう事か。
 (少しはにかむ)いや、違うよ君。私は純粋にその花を買いたいんだ。
ルイス
 (パッと顔を赤らめる)そ、そうでしたか! でしたら30で結構です。
オーギュスト
 (金貨をそのままルイスの胸ポケットに滑り込ませる)とっておきなさい。
ルイス
 え……でも……!
オーギュスト
 君は彼女の為にいつも花を届けていたのではないか? 
 この花達には見覚えがある。
ルイス
 (驚いて)分かるのですか?
オーギュスト
 ああ、分かる。花というのは育てる人間によって、その姿形を変えるものだ。
ルイス
 僕の花を知っていたという事は、あなたはもしや?
オーギュスト
 オーギュストだ。
ルイス
 あなたが伯爵……! 僕はとんでもない失礼を……!
オーギュスト
 何も失礼など無かったさ。気にしなくていい。
ルイス
 (頭を下げ)あ……有難うございます。
オーギュスト
 彼女はいつも君の花を愛でていたよ。
ルイス
 (俯く)僕の花は……穢れていて……あの人には似合わなかったでしょう。
オーギュスト
 そんな事は無い。彼女は本当に君の育てた花が好きだった。
 ……本当に、どうしてこんな事になってしまったんだろうね。
作品名:戯曲 フォビア 作家名:有馬音文