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南の島の星降りて

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海岸を後にして


木 金 土 日曜日を夏休みはバイトをすることにしたので、今日は時間はいつまでも良かったんだけど、遅いと小田急線が込むので帰ることにした。

時計は2時だった。
大場は「車でおくってってやるよ」って言ったけど、電車が好きだったので断った。でも明日の朝も迎えに来るようには言っておいた。

「劉よ、明日も来るんだったら預かってやるって」
隼人さんだった。
「そうしちゃいなさいよ。大変でしょ」
隣に立っていたのは夏樹じゃなく麗華さんだった。やっぱり内心はへんなの・・って思ってた。
「本当にいいんですか」
「ああ。遠慮すんな」
ありがたかった。本当はいつも、海に来た後に鎌倉を散歩したかったんだけどボードがじゃまっけで、どこへも行ってなかった。
「じゃ、お願いします。すいません」
「いいからいいから。じゃ、後で一緒に運んでやるから、そこに置いてっていいぞ。麗華のボードの横でいいぞ」
「じゃ、お願いします。明日もあさっても来ます。で、木曜日から日曜日はバイトなんで、そのまま預かってもらってもいいですか?」
「あいよ」
ずうずうしいかなって思ってたけど、うれしかった。

夏休みの間に行きたかったところを全部まわれたらいいなって、ちょっと笑っていた。とりあえず、階段を昇って車で着替えて「稲村ガ崎駅」に向かうことにした。
10分ぐらいで着く駅だった。

「ねー ねー ってばー 劉ぅー ってばー」
なんか呼ばれていた。
夏樹が走ってきた。
「帰っちゃうんでしょ」
「うん」
「着替えるから待っててよ。劉も着替えるんでしょ」
「そうだけど・・」
なんか、妙に俺に絡んでくるなーって思ってた。そんなに知り合いじゃないのにって。
「一緒に帰ろうよ、家近くなんでしょ。大場が言ってた」
「あ、いいんだけど、長谷寺でもいこうかなって思ってるんだけど」
「いく、いく、私も」
ちょっと、びっくりした。
「あ、いいけど、俺けっこうつまんないけど・・」
「そうかなあ。」

夏樹が着替え終わるのを大場の車からちょっと離れて待っていた。車の鍵は後輪の後ろ側に隠した。お約束だった。

「ごめんごめん、待たせちゃったね」
朝より化粧をしていた。真っ黒な肌に綺麗な白い歯が浮かんでいた。
夏樹もボードは預かってもらうらしかった。

「聞いていい?」
ちょっと聞きたかった。
「あのさ、隼人さんさ、怒らない?俺と一緒で?」
「どうして?」
どうして?って言われるとちょっと困った。
「うーん。だって隼人さんの彼女なんでしょ?夏樹って」
「そうなんだけど。なんか、よくわかんないのよね。彼女になるか?って言ったわりには、全然ほったらかされてるんだけど」
返事に困った。どっちかに肩入れするのはイヤだった。だって、夏樹のことも隼人さんのことも、ものすごく知っているわけではなかったから。

稲村ガ崎駅から長谷駅まで、江ノ電に乗った
そこから、5分ぐらいで着くはずだった。行ったことはなかったけど。

「なんかデートしてるみたいだね」
「そうかなあ。観光だけど。ただの。」
「あーあ、なんか、こう、もうちょっと気の利いたこと言えないかなああ」
なんで、そんなこと言われなきゃいけないんだろうって思っていた。
「だったら、隼人さんと来りゃあいいでしょうが、まったく」
少しだけ怒っていたかもしれない自分だった。
「なんか、隼人さんってきっと私のこと、あんまり好きじゃないんだと思うんだよね。そう思わない?」
「じゃ、言うね。怒らないでね。あのさ、俺思うんだけどさ、どう見ても彼女に見えるのは麗華さんなんだけど・・」
言っちゃったと思った。やべーよって自分の声が聞こえるようだった。
不機嫌になると言わなきゃいいことを言う悪い癖だった。
夏樹は少し黙っていた。
ちょっと気まずかった。
しばらくすると夏樹は、立ち止まって聞いてきた。
「ねぇ、はっきりしたいんだけど 隼人さんとの関係・どうすればいい?」
困った。この手の話はけっこう冷たくしか言えないたちだった。
「別れたけりゃ、別れる。好きなら好きでそれを通す」
やっちゃったと思った。相談されてこの答えはないだろうなあ。
「そうかぁ、やっぱり」
「で、どっちなの。好きなんでしょ隼人さんのこと」
「好きなんだけど、彼女にはこのままなりたくないんだよね。付き合いますって言っちゃったんだけどね。前に」
なんか、さっぱりした性格なのかなぁあ・・夏樹は・・って思った。
「じゃ、別れちゃえばいいじゃん」
「でもさ、これからも海で顔あわさなきゃいけないんだよぉ。」
そりゃ俺ならイヤだと思った。
「じゃ、海変えちゃえばいいじゃん。千葉とか茨城とかに」
「それって、なんかイヤだなあ」
歩きながらずーっと話しててとっくに長谷観音様は目の前なのにそれどころではなくなっていた。まっすぐ帰ればよかった。
苦手だった。こういう話は。でもなぜか俺のところにこの手の話がやたらやって来ることは知っていた。
「ま、相談には乗ってあげるよ」
めんどくさいので話を切り上げた
「うん。ごめんね。関係ないのにね」
ほっとした。

「では観音様でも拝みますか・・いいことありますように」
「わー大きいんだねー」
その声を聞いて女は、図太く強いと思った。

十三面観音さまのご利益かどうかはわからないけど、帰りの小田急線では疲れて夏樹はずっと静かに寝ていてくれた。ずーっと恋の相談だったらどうしようかと思っていたので助かった。

豪徳寺の駅に着いて、俺たちはもうさすがに疲れ切っていた。
時間は夜の7時半だった。

なんか、長い1日だった。このまま、何もしないで玄関で寝そうなほど、ヘトヘトだった。
俺ってなんか、知らない間に稲村ガ崎の仲間になっているって気づかされた日だった。
よくも悪くも。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生