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南の島の星降りて

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稲村ガ崎に夏が来た


海に入って沖まででていった。
波はほどほどで素人の俺には丁度よかったけど、隼人さんとかは、つまんないのかなーって思っていた。
波を待つほどの腕でもないので、ま、こんなでいいやって感じの波に何回か乗っていた。というより、立ってるだけみたいなんだろうか・・俺って。
立ち上がって乗ってはドボン、乗ってはドボンで、だんだん浜辺が近づいてくる。そんな感じの俺だった。

さすがに大場は毎日のように来てるだけあって、うまくなっていた。
沖に漕いで向かって見える隼人さんも、麗華さんも、夏樹も、みんなかっこよかった。パドリングだけでも、絵になる人たちだった。

しばらく、ドボンの繰り返しで遊んでると、
「あんまりこないわりには、お前けっこうウマイほうだぞ」
って、大きな声で隼人さんが声をかけてくれた。
こんなところが、稲村ガ崎で隼人さんが俺たち若いのに人気がある理由だった。
「めっちゃ。ヘタっすよ」
「お、あの波いいぞー。乗るぞーいっしょにー」
言われても乗れるかどうか・・・
「一応、やってみます」
「いいかー。きたー」
隼人さんの声で一緒に立ち上がっると、奇跡的に大きめの波に乗っていた。
いつもよりは長く乗れたけど、先にやっぱり、ドボンだった、浮いて見上げた空はめっちゃ青くなっていた。隼人さんはそのまま浜までずーっとずーっと乗っていくらしかった。

俺も疲れたので、ちょっと浜辺で休憩しようかと思っていた。
後ろからだれか、ついてくるようだった。
夏樹だった。
「ねー。聞こえるー」
「うん、なにー」
「新宿でバイトしてるんだって聞いたんだけどー?」
「うん、中央口の武蔵野ビルの前あたりのコーヒー屋」
わかるかどうかは、疑問だったけどいつも答えるように言ってみた。
「名前なんっていうの、お店?」
二人ともボードに横になって話していた。
「OSADAって知ってる?地下なんだけど・・」
「やっぱりかぁあ。」
そのあたりでは有名だったので、知ってても不思議じゃかったけど、ほんとに知ってるのかよ・・って思った。
「その近くでバイトしてるんだ。私も」
びっくりした。
「どこでなの?」
浜辺に近づいていた。
「今度教えてあげるね」
いいながら、立ち上がってボードを抱えて砂浜に夏樹は歩き出していた。

内緒なんだろうか・・バイト先。なんかすんげー気になっていた。

あがると、隼人さんと麗華さんとその友達の由佳さんが迎えてくれた。
夏樹は、なんか買い物に行ったらしかった。
「劉ちゃんさ、今、飲み物を夏樹が買いに行ったから待ってて」
麗華さんだった。
「あ、すいません。いいんですか、俺ももらっても?」
「なんか、おごるらしいわよー麗華が」
由佳さんが笑って話しかけてきた。由佳さんは麗華さんの海での1番の友達らしかった。
「な、あぶねーぞー。お前」
真っ黒な顔で隼人さんも、麗華さんも由佳さんも笑っていた。

「麗華さんなら、俺も好きですから・・」
大人になりたくて無理して言ってみた。
「わー。言うようになったわねー。劉ちゃんも」
麗華さんはすごくうれしそうだった。
「あのな、マジにとるぞ、こいつは、気を付けろよー」
「あら、マジだもの私、ねー由佳!」
由香さんも返事に困っているようだった。
俺はその100倍返事に困っていた。

稲村ガ崎の空は真南に太陽が来ていた。
額に汗をいっぱいかいている俺がいた。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生