南の島の星降りて
稲村ガ崎の浜辺で
麗華さんの後を付いて浜辺に着くと隼人さんと夏樹が並んでこっちを見ている。
「劉ちゃんよー。ちょっといいかぁー」
ってこっちに身長180cmの隼人さんが手を振って呼んでいた。
ボード抱えてあわてて側にいくと、夏樹の口が「あとでね」って隼人さんに向かって動いていたようだった。
夏樹はボードを抱えて海に向かって歩いていった。
「おはようございます。なんでしょうか?怒られますか?」
マジ、けっこうびびってた。
「いや、お前いつもは電車できてるんだろ?」
「あ、車持ってないっすから俺」
「そうか、大変なら俺のマンションの下でボード預かってやろうか?俺の住んでるとこあそこだから」
指差したほうをみると海辺のマンションだった。
「へーあそこなんだ、隼人さんて、知らなかったっす」
「あそこ、下にさ、ボード置くとこあるからさ、置いてやってもいいぞ」
「いやー、ありがたいんですけど、俺ボード持って電車乗るの好きなんでいいです。田舎モンなんで」
「そっか。じゃ、気が向いたらいつでも預かってやるから、その時は言えや」
「はぃ。たまにお願いするかもしれません」
俺はなんかうれしかった。俺のこと知っててくれたことを喜んでいた。
「隼人ーやさしいじゃん。劉ちゃんに」
後ろにいた麗華さんが明るい声で言った。
「ばーか、そんなことねーよ。あ、お前こいつ狙ってるだろう?」
「当たり。劉ちゃんさ、かわいいんだもん。」
また、からかわれていた。
「気を付けろよ、本気だぞ、こいつ」
でかい手で俺の頭を押さえながら隼人さんは笑っていた。
「あぁ。隼人さ、そんなこと言ってるより、劉ちゃんに夏樹とられないように気をつけたほうがいいかもよ・・」
「へー。夏樹タイプか?劉?」
頭の中がグルグル音をたてて混乱していた。
「彼女いますから・・俺」
「あぁ、いつも一緒にくる子か・・今日はきてないのか?」
「夏休み入ったんで田舎に帰りました」
直美は2日前から実家に帰っていた。
「そりゃ、余計あぶねーぞ。劉。気をつけろ、この麗華に」
「こら」
麗華さんは思いっきり、隼人さんの足を蹴っていた。
「痛ぇなーまったく。じゃ俺もう入るわ。ボードの事はいつでも遠慮しないで言えよ」
隼人さんは真っ黒な背中を向けて海を見ていた。
「あ、すいませんでした」
俺が麗華さんの代わりに謝っていた。
少し歩いて隼人さんが振り返っった。
「あ、劉ちゃんよー。俺、お前ならいいや。夏樹のこと。あの彼女と別れたら言えや。俺に」
何を言われてるのかさっぱりだった。頭の中はもっとグルグルと音が鳴り出したようだった。
「あれ、けっこう本気よ。劉ちゃんみたいな人好きだもん、あの人」
麗華さんまで・・
「あ、俺ももう、入ります。麗華さん」
「麗華さんってやめてよ、麗華って呼びなよ」
もう、なにがなんだか・・呼べるかよって思った。
俺はもう返事も出来ずに海に走っていた。
後ろから麗華さんが
「劉ちゃーん。かわいいわよー」
って笑っていた・
稲村ガ崎の波も俺を笑っているようだった。