南の島の星降りて
車は稲村ガ崎に向けて
寝ちゃおうかな・・って思ってたけど、運転しながらの大場がうるさくてそれどころではなかった。
「夏樹ってどこよ、田舎?」
東京育ちの大場がよく聞く質問から始まった。
あれ、大場は夏樹が沖縄の子だって知らないんだって思ってた。
「沖縄の浦添市ってわかる?」
「沖縄かぁあ。そりゃ、遠くから来たわな。行ったことないや」
「うちなんちゅうだって顔でわかる?」
なんて言ってるのか俺にはわからなかった。
「いわれりゃ、なんとなくだな・・」
大場は意味がわかったらしい。俺はきょとんと後ろの席でその会話を聞いていた。
「劉って呼んでいいよね。劉はどこから?」
振り返って夏樹が聞いてきた。
「ああ、こいつは茨城のいなかっぺだっぺよ」
大場が下手な茨城弁でからかいながら、ハンドルを握って言いやがった。
「へー 茨城ってなまってるんだ」
ちょっと笑いながら夏樹は前をもう向いていた。
「普通はなまってるね。俺は東京に親戚多いから、うまいのよ江戸弁が・・夏樹もぜんぜん標準語じゃん」
「そうでもないんだけどね。たまに出ちゃうから」
「いや、綺麗な標準語だよ。東京は北区育ちの俺が言うんだから、間違いなしよ」
大場は北区の王子が実家だった。
「劉も全然標準語っていうか、この頃横浜言葉だな。ハマトラの女とでもつきあってるんじゃないか」
「へー、彼女は横浜なの?」
また、振り返って夏樹が聞いてきた。
「いや、違うってば、バイト先に横浜生まれの先輩いるからこの頃なんかうつっちゃうんだよね」
「へーそうなんだ。彼女いないの?」
ずっと後ろを向いて聞いてくる。
「いますよー柏倉は。いいなずけがいるのよ。一緒に住んでるんだっけ?」
夜中なのに、いつもより大場の声はでかっかった。
「いいなずけでもないし、一緒にもすんでないよ。ま、よくいるけどさ。一緒に俺と海には来てるんだけど、しらない?」
「あー、ちょっとしゃべったことある。うーんと直美ちゃんって言ったっけ?名前」
「そうそ。ちゃんと今度紹介するよ。夏休み入ったから、もう田舎帰ってるんだ」
「そっか、じゃ、今度ね」
車はもう、用賀につきそうだった。
「柏倉が高速代はだせよなー」
大場がいつものセリフをいいながら、カーステレオのスイッチを入れた。
お決まりだが、サザンだった。
「ガソリン代は大場ね、払うの」
「ぜったい、それって俺が損だわ」
オヤジの車だから絶対大場は自分でガソリンを払っているわけはないと前から思っていた。
「ね、私はなに払えばいい?」
「じゃ、横浜インターでホットドッグをカラシたっぷりでお願いします」
なんかいつもより陽気な大場だった。
「ね、劉もそれでいいの?」
「あ、俺はケチャップたっぷりで、ください」
「なんか、あんたたち二人、おかしいわ」
夏樹はポニーテールで束ねた髪をとかしながら、笑っていた。
車は第三京浜を南の海を目指して、すっとんでいた。