南の島の星降りて
1980年 19歳の夏
大学生になって、3ヶ月ちょっと経っていた。
江古田の大学も、もう夏休みになっていた。前期の試験は9月だし、この夏は遊ぶぞーって思ったけど、新宿の喫茶店「OSADA」のバイトを週に4回に増やしたから、そうそう遊んでもいられそうになかった。
でも湘南にはよく出かけていた。
「でさ、柏倉のボードって、こんな色だったっけ?」
サーファー仲間の大場がオヤジのワゴンシ車にボードを突っ込みながら言っている。
「先週さ、バイト代でたから、買ったのよ」
「うひゃー金持ちー」
「ばーか、中古でしょうが。どう見ても」
なんか、メッチャ赤い色だった。
「柏倉って赤好きだよねー」
「子供の頃から好きなんだもん。仕方ねーじゃん。それより、大場の学校はもう授業ないのかよ?」
「もう終わったよ。それよりさぁ、大場ってやめてくんない。みんな、お前につられてこの頃「オオバ」って呼ばれるんだよ。大樹って呼べよー。海でさ「大場ぁああ」って呼ばれるの俺好きじゃないんだってば」
「じゃ、ヒロキーって呼んでやるよ。海行ったら」
「柏倉はさ、どっちでもなんかかっこいいからいいけどよぉ」
「おめえだって「劉」って呼ばねーじゃんか」
夜中の3時過ぎでも、蒸し暑かった。昨日梅雨が開けたってTVで言ってたな。天気予報は必ず見ていた。波の高さを推測する為だった。ま、そこまでの波なんか来るはずもない湘南に行くんだけど・・・
「じゃ、湘南まで、飛ばしますか!」
助手席に乗り込むと
「あ、劉はさ、今日は後ろに乗ってくんない」
「え、なんでよ」
「もう一人拾っていくからさ、「夏樹」って知ってるでしょ」
「あぁ、しゃべったこと、ほとんどないけど・・」
1度だけ、話したことがあった。沖縄生まれの綺麗な子だった。
「この前初めって知ったんだけど、この道まっすぐ行ってコンビニの隣らしいぞ、家」
「えーっ。すぐそこじゃん」
俺もビックリしていた、それは300mぐらしか離れていなかった。
「あの子さ、誰の彼女だっけ?」
「隼人さんでしょうが・・まったくそういうの興味ないよね。柏倉って」
隼人さんは、3個年上の湘南の地元のメッチャかっこいい人だった。
「へーそうなんだ。あの子が隼人さんの彼女って。知らなかったー」
言いながら仕方なく後ろの席に座った。ま、このまま寝れるからいいやって思いながら。
まっすぐ走ると、もう彼女は道路に座って待っていた。
大場は車を止めながら、開いた窓から彼女に
「ごめんねー遅くて、こいつを拾ってたから」
「私も、今、出てきたところだから」
きちんと夏樹は化粧をしていた。
「あ、こいつ知ってるよね。柏倉」
「うん。前にしゃべったことあるよ。劉でしょ。お昼食べながら」
「お昼って言うか、カップメン立ち食いしながらだな。ボードは今、大場が乗せるから助手席座っちゃってていいよ」
言うと、ごめんねって大場に言いながら、夏樹は助手席に乗り込んできた。
夜中の車に赤いハイビスカスが咲いた様だった。
こんなに奇麗な子だったっけと思ってた。
僕らは、一生懸命、赤いハイビスカスを乗せて湘南に車を走らせた。