時明かりに結夢
ぱちり、指先に電流が抜ける。
風が軋む。
ぱちぱちと、弾かれるように音がしている。
――雨が降る前兆のようだ。
深く臍を噛む。
「かみほぎにみほぎたまえば、はやきこしめしてあしきこととがたたりはあらじものをとを――」
号。突風が腕を攫う。目を見張る隙も無く、もう一陣。
豪。神巫女の形が崩れ、落ちていた枝や礫が彼女へと吹き荒ぶ。詞が途切れた。
「真那賀!」
都来の叫びと共に、彼女を擁護する又別の風。力だ。
それが膝をついた真那賀の盾となる。
「ありがとう」
弱く微笑む巫女が顔を上げる。都来は毛羽立った気配のまま、苛々と眉根を寄せる。
「今のは」
強い語調で彼女へと確かめる。捌け口を彼女に求めても意味は無いと知りつつ。
立ち上がった巫女は、真那賀は、既に正気を取り戻している。平然と周囲に散らばった礫を見遣った。鋭く折れた大木、重量ある礫岩。視界を遮るだろう柞(ははそ)の腐葉。
「思わぬ抵抗ね。というより、もう仕方が無いのかも知れないけれど」
絶え切れず折れてしまった榊の欠片を手放しながら首を降る。
思わぬ、と口にしながらも、巫女の表情に翳りは無い。否、既に知り得ていた所為なのかもしれぬ。
詞を紡ぎだしたその瞬間に。或いは、一枚岩の神籬に触れた瞬間に。
しかし時は既に遅く。
山神への祈りは届かない、その所以。
「此処に居るのは山神ではないわ」
思い知った後の射干でさえ、それを肯んずるしかないと首を縦に振る。
「魂は、揺れるだけでは飽き足らずに自我を求め始める。ぼんやりとした僥倖の象徴ではなくて、この森を使役するために」
眠るのは自然の魂ではない。寄り集まり吹き溜まった“それら”は既に意志を抱えている。群がる数多の意思ではなく、ひとつの、変えられぬ存在として目醒め始める。
この玉座に腰を据えようと待ち侘びる大きな精として。
「どうやら、これは神結いのようね」
平然としたその横顔に、僅かに揺れる眼差しを見る。
傍に仕える獣は口を閉ざしたまま。