時明かりに結夢
翌朝、未だ陽の上りきらぬ暁に、真那賀と都来は神社を出立した。
行き先は十里離れた山の奥。紺碧の陰に紛れる様にして二人は足を踏み入れる。その周囲には集落もなく、鬱蒼と緑が全てを覆い尽くしている。人の手の入らぬ、自然の御霊と息遣いが支配する場所である。
がさりがさり、獣道を分け入る。いつしか太陽は南天に近い。方角も判別出来ぬ、閉ざされた空の下。それでも真那賀は迷うことなく先へ進む。霊道を追っているのだと、無言の中に察する。
「懐かしいわね」
唐突に巫女が口を開いた。賓(まれびと)に息を潜める精気の森の中で、彼女の聲は良く耳に通った。
「此処って少し、貴方のいた森に似ている」
背丈の揃わぬ木々を見上げ、時折覗く白い空に目を眇める。湿った森の風が鼻を擽る。
「そうか?」
そうよ、と、巫女が笑った。
「力の溢れる山奥、人が入らない土地。異なるのは、生き物の気配さえ少ないことかしら」
都来は耳を澄ます。確かに先刻から聞こえる生き物の息遣いは数える程少ない。普通であれば物の怪以外、純粋な獣や鳥も住まう筈なのに。
危ぶんでいるのかと先刻までは考えていた。けれど、どうも違うらしい。根本的に頭数が足りない。精気ばかりが膨れていて、生命の輪郭が滲んでいるような。
だからこその霊鎮めなのだと真那賀は言った。
森の魂が大きすぎて、そこに棲む筈の生き物が寄り付けないのだと。
「穏やかな森になれば、また生命の集う場所になるわ」
がさり、目を遣る足元の土は枯渇している。
やがて視界が開ける。