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時明かりに結夢

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 都来はひとり、空を駆けていた。
 向かうのは阿佐御神社。真那賀の血筋が先祖代々遣える場所であり、獣上がりの己が身を寄せる場所だ。当の真那賀は、もう少し森を見たいと頑なに手を取るのを拒んだ。一度戻ろうと言うから頷いた。鎌鼬の如き無数の疵を治すにも良いと思ったからである。
 それなのに元から真那賀には帰る意思は無かった。『戻ろう』というのは賛同ではなく、最初から主人より小間使いへの指示だった。少しは思い巡らすべきだったのである。阿佐御神社の神巫女が務めを放り出して帰ったことなど一度もないのだと。
 都来が折れる以外に術はなかった。それゆえ彼が唯一可能なのは、一瞬でも早く彼女の元へ戻るという心得のみ。

 鎮守の森の裾へ降り立ち、唯一の結界の切れ口、朱色の鳥居から境内へ入る。手ごろな氏子を捕まえ、禰宜へ取り次いでもらうように頼む。正式な神社の人間でない都来にはそれしか方法がない。
 要り用なのだと、真那賀の書付と共に玉串を差し出す。真那賀の父である禰宜は丁寧に頷き、軽く書面を確かめたのち、枝や注連縄を彼の前へと運ばせた。

「有難うございます」
 その間、彼が娘の所在を確かめることはなかった。余程信用しているのか、確信しているのか。鋭く折れた枝を見ても眉ひとつ顰めることもなく、ただ都来に、頼むと声をかけた。

「あれは少し無茶を働くから」
 最後にほんの僅かに苦笑を浮かべる。それを見てやっと、己が感じているものが他人にも々なのだと知り得て、少しだけ心が収まった。
 それでも、彼女のために気を揉むのは変わりようも無い。

 榊の串と、水引と、足袋。加えて注連縄。合口を二振り。それらを総て行李に入れ、少年は一刻前に来たばかりの道を急ぎ戻っていく。
作品名:時明かりに結夢 作家名:篠宮あさと