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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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綿津見國奇譚

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 片目を潰されたアカマダラはやみくもに妖剣を振り回した。その動きを封じようとマツリカとクサナギは術を使ったが、オボチの太刀の邪気に邪魔されうまく力が働かない。
「グレン。グレンが来てくれたら」
 マツリカはつぶやいた。
 勇者が七人揃えば、すべての気が完全にそろう。そうすればあらゆる邪気を一掃することができる。そしてグレンの気がこちらへ向かっていることもわずかに感じていた。
「ホムラ。きみの大鎚でどこでもいいから壁に穴をあけろ」
 クサナギが言った。
「はい。まかして」
 ホムラは壁という壁はおろか、天井まで破壊しはじめた。ところがこれはグレンを迷わせないためだけでなく、今戦っている自分たち勇者にとっても好都合なことだった。なんと光が射し込んできたとたん、
「や、やめろ。目が見えん。光はだめだ」
 アカマダラは苦しみだした。しかも見えなかった体が光によって見えはじめたのだ。
「ぐ、ぐえー、ぐふっ、ぐふ……」
 それは思わず目を背けたくなるほどのありさまだった。アカマダラの姿は赤と黒の巨大なサンショウウオのようで、日の光のためにたちまち皮膚はぶつぶつと潰瘍ができたかと思うと、やがてただれて血や膿が噴き出し、腐ったようなにおいをあたりに漂わせた。
「これがアカマダラ」
 しばしの間勇者たちは呆然とした。その時オボチの太刀は自らアカマダラの手からはなれ、ヒムカに襲いかかった。
「あぶない! ヒムカ」
 ヒムカをかばって刃を受けたクサナギが倒れた。
「クサナギ!」
「クサナギさん!」
 勇者たちはクサナギのもとに駆け寄った。しかし、そのとき再びオボチの太刀が襲いかかってきた。
「あぶない!」
 今度はすんでのところでマツリカとシノノメが結界を張ったため、キーンとかん高い音がしてオボチの太刀は跳ね返り、アカマダラの手に戻った。
「油断してはだめだ。さあ、みんなで力を合わせるんだ」
「クサナギ。ごめんね。ぼくのために」
「気にするな。君が弱気じゃみんなの志気にさしつかえるぞ!」
「はい」
 クサナギは闘いの邪魔にならないように隅に退き、シノノメが怪我の手当に当たった。心配そうにカササギもそばに寄ってきていた。
 クサナギはヒムカをかばいながらもうまく除けたので、幸いにも切られた肩の傷は浅かった。だが、いくらか気を吸い取られたために体力が落ちてしまっており、ユズリハがもたせてくれた薬湯を飲んで、体力の回復をはかった。
 逆にクサナギの気を吸い取ったオボチの太刀は力を増し、アカマダラを操りだした。
「ぐふふ。ぐふう……」
「あいつ。体が大きくなった」
「なんて奴だ」
 シタダミに片目をつぶされたうえ、光によって完全に目が見えなくなったアカマダラだったが、力の増したオボチの太刀の妖気によって体はより大きくなり、ただれていた皮膚はかさぶたで覆われ、しかもそのかさぶたは鋼のように硬く、サクヤの矢はいうには及ばず、シタダミの飛苦無でも突き通すことはできず、ホムラの大鎚でうち砕くこともできなくなっていた。
「だめだわ。矢がはじかれる」
「おいら、手がしびれちゃった」
 そのため勇者は苦戦を強いられ、もはや防戦にならざるを得なかった。勇者たちの悪戦苦闘ぶりを見てクサナギは体力を早く回復させようと焦った。
(はやく、早く来て。グレン!)
 マツリカは心の中で叫んだ。

作品名:綿津見國奇譚 作家名:せき あゆみ