綿津見國奇譚
「よくやったな。次の課題は自分で敵の動きを封じてなおかつとどめをさすことだ。さらに強い精神力が必要だぞ」
クサナギの励ましにヒムカは大きくかぶりをふった。その顔は幾分自信に満ちていた。
(力は実戦で使ってこそ生きる。わたしがアカツキさまから教えられたことだ)
そんなクサナギの思いを十分受け止めたヒムカだった。
コジャノメの妖魔を倒した四人は中庭へ降り立った。いよいよ天守に入ろうとした時、カササギに乗ったシノノメとシタダミがやってきた。シタダミはまだ機嫌が悪そうに口をへの字にまげており、誰とも目を合わせようとはしなかった。
「シタダミ、元気ないわね」
心配そうに声をかけたサクヤに、シタダミはちらっと目をやると、すぐにぷいっと横を向いた。
「こいつ。さっきから態度悪いぞ!」
ヒムカがシタダミの胸ぐらをつかんでなぐりかかろうとした。しかし、サクヤが割って入った。
「やめて。お兄さま」
「ごめんなさい。ヒムカさま。この子の復讐をわたしが止めたから」
シノノメがヒムカに謝ったが、ヒムカは不満そうに後ろを向いた。クサナギはその肩を軽く叩いてたしなめながら、シノノメに尋ねた。
「ではハマクグは生きているのですか?」
「いえ、わたしたちと入れ違いにフサヤガ兵がやってきて……」
「もうちょっとでとどめがさせたのに!」
シタダミはシノノメの方を向くと悔しそうに叫んだ。
「シタダミ。これでよかったんだ」
クサナギはシタダミに静かに言った。シタダミは肩を振るわせて泣いた。