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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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綿津見國奇譚

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   四、六人の勇者
 
「結局、ぼくの活躍するとこはなかったんだ。せっかくの初陣だったのに」
 帰る道すがらヒムカは愚痴をこぼした。
「クサナギったらいきなりぼくをかかえて飛んでくだろ。びっくりだよ」
「しかたないよ。邪悪な気を感じたからね。一刻も早く助けなきゃって思ってさ」
「でも、ぼくだって勇者の端くれだよ。抱えられて登場ってのはさまにならないよ」
 そのときサクヤが言った。
「お兄さま。わたしだって怖くてシタダミに助けられたのよ」
「いや、ぼくも怖くて立ってるのがやっとだったんだ。一時はどうなるかと思ったよ。ホオリ族の邑で育ったから、奴らのやり口はわかってたけど、自分が攻撃されたら足がすくんじゃった」
「よく頑張ってくれたね。シタダミ」
 クサナギはシタダミをねぎらった。
「母からサクヤを守るようにといいつかりましたから」
「そうか。シノノメさまが……。いつかお会いできたらお礼を言わなければ」
 こうしてもとの正しい道に戻り、マツラ族の邑の近くになると、クサナギは言った。
「さあ、早く邑に行くためにこのへんで力を使ってみるか」
「え、どうやって?」
 シタダミが言った。
「石に気を込めるんだ。自分の行きたい場所を強く念じるんだよ」
「へえ、そんなこともできるんだ」
 そして、クサナギが真ん中に、両脇にヒムカとサクヤ、外側にマツリカとシタダミが立ち、手をつなぐと一心に念じた。
 五人の体がふわりと宙に浮いたかと思うと、ものすごい早さでまわりの景色が動き出した。いや動いているのは実際は自分たちなのだが……。
「きゃ」
 サクヤが叫んだので、一旦飛ぶのをやめて地上に降りた。
「ごめんなさい。怖くて」
「いや、しかたないよ、初めてだし。君は人間なんだから」
 クサナギはやさしく言った。ヒムカも妹をいたわった。
「そうだよ。ぼくはホデリ族の中で育ったから少しは慣れてるけど……」
「だいぶ邑に近づいてる。これなら歩いても夕方には邑に着く」
 クサナギがサクヤを抱えて飛んでしまえば簡単だったが、いずれ力を使いこなすためには乗り越えなくてはならないことだ。少しずつ馴らしていくのがよかろうと、クサナギはサクヤのペースに合わせることにした。
 五人は海沿いの道に出た。初めて海を目にしたサクヤとシタダミは目を見張った。
「へえ、すごいなあ」
「まあ、これが海?」
「初めてなの? サクヤさん」
「ええ、だってホオリ族の邑は砂漠だもの。ね、シタダミ」
「うん」
「ねえ、クサナギ。ちょっと遊んでいい?」
 ヒムカも加わって、ひとしきり海辺で遊ぶことになった。
 クサナギは、戦いで実力以上の力を使ったためか(それはとりもなおさずアカツキがのりうつったせいなのだが)、砂浜にごろりと横になるとすぐにうたた寝をはじめた。マツリカは、クサナギのそばに腰をおろし、三人が遊ぶのを見ていた。
 しばらくしてマツリカはふと何を思ったのか、皆を砂浜に残して姿を消した。瞬間移動をしたのだ。
 その海岸にほど近い場所で、ホムラが音をあげていた。
「もうだめだ。腹減ってもう一歩も歩けない」
「情けないこと言うなよ、ホムラ。がんばれば今夜には邑に着くんだから」
 聖霊石が体の一部になっているこの二人はクサナギの気を正確に捉えていたようで、一度も道を間違えず進んできたのだ。その二人の前に愛くるしい女の子が現れた。
「き、君。どこからきたの?」
 グレンは驚いた。たった今までなんの気配もなかったのだから。
「マツリカ」
 鈴をならすようなかわいい声で、マツリカは答えた。
「マツリカ? って君、ホデリ族の子?」
 大きな袖の服に、玉飾りをつけた姿は、宮廷に仕えていた方技官の衣装と似ている。だからグレンには、その少女がホデリ族だとすぐにわかった。
 すると、いきなりマツリカは、グレンの目の前に指をつきだした。
「あなたは瑪瑙のグレン」
 そして、次にホムラを指さして言った。
「あなたは金剛石のホムラ」
「わあ、すごいな。つぶれたばあちゃんと同じだ。おいらの名前知ってるんだね」
 ホムラは相変わらず無邪気に笑った。
「とすると、その額帯の翡翠……は、勇者の印」
と、グレン。
 マツリカは静かに笑いながら、右手をグレンに、左手をホムラに差し出した。おずおずとその手を取る二人。
「わあっ」
 マツリカの手を取ったとたん、二人は目が回って思わず叫んだ。しかし、次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。

 浜辺では、マツリカがいなくなったことにみんなが気付いて騒ぎ出していた。だが、マツリカはそこへ再び姿を現わしたのだ。
「どうしたの? マツリカ。急にいなくなって……。あれ?」
 ヒムカはマツリカに声をかけながら驚いた。マツリカのそばに、自分より年上の見知らぬ少年が二人、立っていたからだ。
「グレンとホムラよ。わたしたちの仲間」
 マツリカはにっこり笑って言った。
「え? 仲間って、それじゃあ」
 グレンのことばにマツリカはうなずいて、皆を紹介した。
「ええ、ヒムカとサクヤとシタダミ。勇者よ!」
「うっわあ、すごいなあ。いっぺんに仲間がふえた。おいらホムラだよ。よろしく」
 マツリカは、二人が比較的近くまで来たことを察知して、瞬間移動で連れてきたのだった。こうして勇者は一気に六人揃った。
「あの、クサナギさん……」
 グレンがはにかむように口を開いた。
「ぼく、父に連れられてホデリ族の邑に行った時、あなたを見てからあこがれてたんです。でも目がこんなだったから。その……。でも、自分が勇者だってわかって自信ないけどうれしくて。とにかくよろしくお願いします」
「グレン。君はいつもすみっこでみんなが剣の練習をするのを見てたね」
「ご存じだったんですか?」
「ああ、君はあのツムカリさまの息子だ。きっとすじはいいはずだ。がんばろう」
「はい」

 その夜、ホデリ族の邑では、かくまわれているクシナダ族の民を交えて、新しくやってきた勇者を歓迎する宴を開いた。
 さて、こちらは聖者の森の奥深く、聖地にある鑑の泉のほとり。
「久しぶりに姿を現わしたご感想は?」
 シラツユが聞いた。
「うん、運動もしたし気分がいい。あのクサナギは思った以上だ。それにおまえの膝まくらは最高だ……」
 アカツキは月をながめながら答えた。
「ありがとう、シラツユ。おまえが先に目覚めて働いてくれたから、うまくことはすみそうだ」
「いえ、それもこれも皆の幸せのためですわ」
 シラツユは花のような顔をほころばせた。かすかに音楽がきこえてくる。アカツキはそっと目を閉じて、耳を澄ました。
「……久しぶりだな。クシナダ族があんなに楽しそうにしてるのは」
 軽やかな太鼓と澄んだ笛の音。娘たちの歌声。そして笑いさざめく声……。それらがいりまじって夜空にすいこまれていく。
「ええ。あんな風に人間が歌って踊ってくらせるのが……」
「そして……われらが自然の気になって眠れるのが、本当の平和なのだ」
 二人は指をからませた。そしてしばしの間かすかな宴の調べをじっと聞いていた。やがてアカツキがまどろむと、シラツユは泉の水面に目を移した。
 水は、最後の勇者ニシキギの姿を映しだしていた。
 
「トオーッ」
作品名:綿津見國奇譚 作家名:せき あゆみ