綿津見國奇譚
あっけにとられるクサナギたちを残し、二人はかき消すようにいなくなった。
「あら、わたし……。どうしてこんなところに?」
我に返ったマツリカはきょとんとした。その姿は、もとの十二才の少女に戻っている。ことの次第をヒムカが説明すると、マツリカは、一人修練所の道場で精神統一をしていたとき、自分をよぶ声が聞こえたので返事をしたら、そのまま意識がなくなってしまったのだという。
「まあ、ツヅレ婆さまがわたしの体を? ちっとも知らなかったわ」
マツリカは頬を赤くした。
「ところでクサナギ。ぼくは妹との感動の再会がしたいんだけど」
ヒムカもサクヤも、さっきから互いに顔を見合わせては言葉をかけそびれていた。サクヤの方は、シタダミに促されていたが、ただもじもじするばかりだった。
「ヒムカ、サクヤ。さあ手を……」
クサナギは二人の手をとって重ね、その上に自分の手を添えた。
「お兄さま」
サクヤの目から涙が溢れた。
「なんか、照れちゃうな。同じ顔の女バージョンが目の前にいるなんて」
「よかったわね、ヒムカ、サクヤさん。わたしはマツリカ。よろしくね」
と、マツリカが手をそえ、さらにシタダミがその上に手を乗せた。
「ぼくはシタダミ。これからいろいろよろしくお願いします」
一つの試練を乗り越えたサクヤとシタダミの石は一回り大きくなっていた。