綿津見國奇譚
「運が悪かったな。よかったらうちにこないか? ぼくもクシナダ族なんだ」
「え、兄ちゃんも?」
「兄ちゃんはよせよ。グレンだ。年は十五」
「おいらはホムラ。やっぱり兄ちゃんじゃんか、おいら十才だもん」
「ええ? ずいぶんでかいなあ」
思わずしげしげと眺めたグレンだった。てっきり、自分と同じくらいだと思っていたのだから。
「兄ちゃんの目、どうしたの?」
グレンの眼帯に興味をもったのか、ホムラは無邪気に聞いた。ふだんなら、目のことを言われると不機嫌になるグレンだが、ホムラの前では、なぜか素直な気持ちになった。
「生まれつき目の中に石があるんだ。ほら」
と、眼帯をとって見せた。
ホムラはきょとんとした。小さな目を倍くらいに見開き、あんぐりと口を開け、ややしばらく、グレンの瞼の中にあるオレンジ色の宝石を凝視した。普通のものなら、驚くところだ。しかし、ホムラは手をたたいて喜んだ。
「わあ、かっこいい」
グレンは拍子抜けしたが、なんだか本当にかっこいいような気になってつぶやいた。
「おまえ、不思議なやつだな」
二人はグレンの家へ向かって夜道を歩いた。
邑境の峠を越えたときにはもう真夜中だったが、月のない夜だというのに、二人のまわりは妙に明るく感じられた。見ると、ホムラの体からほのかに光がでている。
「ホムラ。おまえ」
「えへ、おいらと歩くと明かりがいらないんだよ」
ホムラは、ちょっと得意そうに答えた。その時、不意に後ろから声がした。
「二人ともお待ち」
振り向くと老婆が立っていた。二人にはそれが何者か知るはずはないが、あのツヅレ婆である。
「ほっほ、グレンとホムラじゃな。一緒にいるとまるで団子と串じゃ」
「どうして、ぼくたちの名前を」
「すごいね。おばあちゃん。おいらのこと知ってるの?」
「ほっほ、まもなく勇者が集められる。がんばって修行に励むんじゃぞ」
「勇者って、このホムラも……ですか?」
グレンが聞き返すと、老婆はにやりと笑って答えた。
「さよう。この子の聖霊石は体の中にあって、外には出てこんのじゃ」
びっくりしたホムラは老婆に聞いた。
「おいらの体の中に何があるの?」
「ほ、金剛石(ダイヤモンド)じゃよ。その光が証拠じゃ」
「へええ!」
ホムラは素っ頓狂な声を出した。
「とにかく、今日のところはそれを告げに来ただけじゃからな。まあ、がんばるがいい」 老婆はたちまち煙のように消えてしまった。
「あらら、おいらたち狸にでもばかされたのかな」
「なに言ってるんだ。さあ、もうすぐ家だ。早く行こう」
こうして、ホムラはグレンの家に迎えられ、一緒に勇者としての修行に励むようになった。