綿津見國奇譚
「案ずるな。勇者は無事だ」
見ると、泉がかすかにさざめいて波の上に白く輝く人影が現れた。
肩を覆う長い髪、彫りの深い端正な顔立ちは、まぎれもない肖像画で見知っている、クサナギのあこがれ、アカツキの若き日の姿だった。
静かにクサナギを見つめるアカツキのあまりの神々しさに、クサナギは声を失っていた。アカツキの声が、頭の中にじかに響くと、クサナギは自分の体が、まるで石のように硬くなっていくのを感じた。
「わが志を継ぐ者よ。勇者を助け、国を救う者よ……」
アカツキは、一瞬のうちに光の玉となり、クサナギの体全体を包み込んだ。
「ああ〜〜」
クサナギの体は、たちまち燃えるように熱くなり、しだいに意識がうすれていくのだった。