陰陽戦記ＴＡＫＥＲＵ 前編
俺達は森に入ると今まで感じていた悪寒がさらに強くなった。
今までの鬼とは明らかに違う。
「この気配は…… 間違いありません、暗黒天帝が近くにいます！」
「本当か？」
「気を付けてください、もし暗黒天帝がこの怨霊を取り込んでいるとしたら……」
「とにかく急ごう、話はそれからだ！」
美和さんの指し示す方向に向かうと森を突き抜けて行くとそこは問題の慰霊碑だった。
しかし破壊されていてそこには１人の男が立っていた。
「お前は…… 学？」
俺は思わず固まった。
何でこんな所に？
「やあ、武じゃないか」
みると学は気絶している加奈葉を抱いている。
「そうか、そう言えば加奈葉の奴がこの場所を聞いたんだから心配になって来てくれたのか」
すると学は口の端を上げて笑ってくれた。
「まぁね、怪物が出るって聞いたからね。気になってきてみたらここで加奈葉ちゃんが倒れててさ」
「そうか、加奈葉もドジだよなぁ」
俺は笑うが隣にいた桐生さんは青龍の銃を学に向けた。
「桐生さん、何を？」
「悪いけどこんな子供騙しに引っかかったりはしない！」
「だってこいつは！」
「君の知り合いか？ だったらさっき言った通りだ。彼が暗黒天帝の協力者だ！」
「な、何言ってんスか？ そんな訳……」
「いえ、桐生様の言うとおりです……」
美和さんまで？
「その方から発せられる禍々しい波動…… 間違いなく暗黒天帝の物です！」
「なっ…… 冗談だろ？ 学、何とか言ってくれ！」
俺は心の底から間違いであって欲しかった。すると……
「ブッ、アハハハ！」
すると学は大口を開けて笑い始めた。
「やっぱりダメだ。どうしても笑っちゃうなぁ……」
「……じゃあやっぱり」
「ああ、そうだよ」
学は一間置く。
「そこの２人の言うとおり、僕は暗黒天帝様の協力者だよ」
「なんだと？」
「四月のある日に暗黒天帝様が目の前に現れてね。正直驚いたけど、あの方は自分の復活に手を貸せば願いを叶えてくれるって言うからさ」
「それで手ぇ貸したって訳か？」
「悪いかい？」
学はまるで罪の意識を感じていないかのようだった。
もしくは開き直っているかだ。
「悪いって、お前……」
「周囲の人間だってそうだろ？ 誰だって叶えたい望みはあるし、それに人間なんて少なからず悪事を働いてるんだし。僕がやった所で問題は無いだろ？」
問題が有るとか無いそう言う事じゃねぇ、それがどう言う事か分かって言ってるのかこいつは？
「武、世の中は酷い事ばかりなんだよ。あの方は正しい方向に世界を作り変えてくれるんだよ？」
「正しく世界を？」
「そう、みんな等しく平等で平和、悲しい事も辛い事も無い世の中だ」
「……意味が分からねぇよ」
「だから、みんな等しくて平等の……」
「その意味じゃねぇよっ！」
俺は怒り交じりの大声を上げる。
「お前は暗黒天帝がどれだけ汚ねぇ事してるか分かってんのか？ あいつのせいでどれだけの人達が苦しんだか分かってんのかっ！」
「はぁ？ 何を言ってるんだ。世界が変わるんだから多少の犠牲は仕方ないだろ！」
「仕方ない……？」
「そうだよ。それが当たり前だろ？」
俺は頭の中が真っ白になった。気が付いたら俺は右手を握り締めて学に殴りかかっていた。
「おっと……」
しかし学はあっさりと交わしてしまった。
「都合が悪くなればすぐに暴力かい？ 君ってそんな野蛮人だったのか？」
「黙りやがれこの大馬鹿野朗！」
どうでもよかった。
ただこいつをぶっとばしてやりたかった。するとこいつの顔面に拳がぶつかる瞬間に突然俺の体に電流のような物が走った。
「ぐあああああっ！」
俺はその場に倒れた。
そして意識が段々なくなって行く中、学の冷酷な笑みと何言ってるのか分からないが美和さん達が叫んでいるのが俺の見た最後の光景だった。
作品名：陰陽戦記ＴＡＫＥＲＵ 前編 作家名：kazuyuki