陰陽戦記TAKERU 前編
俺達はとある部屋に逃げ込んだ。
椅子やテーブルでドアを押さえ込むと美和さんが懐から札を取り出してドアに張り付けて両手で印を結んだ。
「ハッ!」
すると札がほのかに輝いた。
「これでしばらく時が稼げます。」
「はぁ…… 何だってんだよ?」
俺はしゃがみ込んで鬼斬り丸を見た。
鬼に勝つには青龍の力が必要、しかし青龍の力は使えない、白虎や玄武の力は使えるのに……
「……恐らく、青龍がそうしているんだと思います。」
「ええっ?」
美和さんが俺の隣りに正座する。
実は青龍は他の聖獣と使い手を選ぶと言う、
「……玄武や白虎もそうですけど、特に青龍は大変でした。朱雀がいてくれたからどうにかなりましたけど……」
美和さんは自分が契約した朱雀のおかげで青龍を説得する事ができたと言う、しかし青龍は力は貸してくれるが自分を認めてはくれなかったらしい、
「じゃあ、どうしたら……」
だが外に出れない事にはどうにもならない、
他の聖獣に説得してもらおうにも玄武や白虎はあんな状態だし、麒麟はまだ回復していない……
「くそっ!」
俺は床を叩きつける、するとその時だ。
突然背後に冷たい気配を感じだ。でも振り向いてもそこには誰もいない、
「……おかしいな? ねぇ美和さ……」
すると美和さんは険しい顔をしながら弓を構えると俺に向かって弓を引いて光の矢を出した。
「み、美和さん?」
「武様っ…… そこを離れて!」
「えっ?」
すると後を見るとそこには今まで誰もいなかったはずなのに1人の少女が立っていた。
香穂ちゃんと同じ位だろう、整った前髪にストレートなロングヘア、結構高そうな黒い服を着ている。
しかし驚くべき事はその子の全身が半分透けていると言う事だった。さらによく見ると足が無い、つまりその子は……
「ゆ、幽霊……?」
始めて見たぜ…… いや、ジョンの時に見たから2回目、でも『人』は初だな、
「どいてください!」
美和さんは目が本気だった。
俺が退いたら迷わず討つ気だろう、恐らくこの館に鬼がいる時点でこの子も鬼の化身と思っているのだろう、
そう言や忘れてたが美和さんは鬼には容赦が無かった。
「ちょっと待って美和さん!」
「何故ですか?」
「うっ、いや、その……」
美和さんに睨まれて俺は言葉を失った。
すると女の子は口を開いた。
『……けて……』
「えっ?」
『……助け……て……私の……お友達……』
少女の目は悲しそうだった。ちゃんと言葉も言ってるみたいだ。
どうやら暗黒天帝の影響は受けていないらしい、美和さんもそれが分かると弓を降ろした。
「君は……」
俺が手を伸ばすと女の子は消えてしまった。
途端床に何かが落ちていた。拾ってみるとそれは写真立てだった。
一枚の写真が入っていてそこにはあの女の子が映っていた。そして……
「まさか、友達って……」
だがその時だ。
扉を叩く物凄い音が聞えた。
「まずい、見つかったかッ!」
俺は鬼斬り丸を、美和さんは弓を構える…… しかしドアはぶち破られ鬼に操られている人々が部屋の中になだれ込んできた。
そして人々の頭上を飛び越して鬼も入ってきた。
「武様、ここは私が囮になります。だから青龍を……」
「いや、俺は逃げない、」
俺は美和さんを下がらせる、
「俺は鬼を倒す!」
「で、でも…… 青龍の力が使えないんじゃ……」
「そんなの関係ない! 俺は鬼を倒す、そしてあの子の友達を助ける!」
俺は暗黒天帝を許せないと思ったのはこれで2回目だ。
1度目は香穂ちゃんの時、そして今回で2回目だった。
家族や友達を利用し鬼に変えて悪事を働かせる野郎を俺は許す事はできなかった。
でも俺は鬼を怨んだりはしない、誰だって会いたい奴がいるんだ!
「俺は戦う、人間も鬼も、俺は全部助けるっ!」
そう思った瞬間、鬼斬り丸に変化が現れた。
「なっ?」
俺は目を見開いた。
何と刀身に青い光が螺旋を描いていた。間違いない、これは青龍の力だ!
「ど、どうして?」
美和さんは困惑する、
今まで自分から人に力を貸した事のない青龍が自らの意思で力を与えていると言うのだ。
作品名:陰陽戦記TAKERU 前編 作家名:kazuyuki