陰陽戦記TAKERU 前編
そして一夜開けて翌日、俺達は自転車で美和さんが感じた聖獣の気配を元へと急いだ。
そこは学校から北にある山だった。ここはちょっとしたハイキングコースで有名だった。
頂上には古い神社があるがどれだけ昔に造られたのかは近所の人間でも分からない、だが麓には多くの人達が集まっていた。
怪獣が描かれた札を持つ者やテレビの撮影まで来ている。
「何の祭り?」
「さぁ、有名人でも来てるのか?」
俺達は自転車から降りる。
するとその時だった。
「あ、武!」
「ん?」
俺は声のした方を見る、
するとそこには和利と良子と亜由美と学がいた。
「お前も怪獣を見に来たのか?」
「怪獣?」
なんのこっちゃ?
首を傾げる俺達に良子が説明する。
「知らなかったの? この山に怪獣が住んでるんだって、」
「まさかぁ……」
「本当よ、もう何人も見たって奴がいるんだから!」
「それでアンタ達も見にきたと? 学まで……」
加奈葉が見ると学は苦笑しながら手を振る。
「いや、僕は散歩だよ、そうしたら和利達にあってさ……」
「まぁ、いいじゃない。暇つぶしにはなるんだから」
亜由美は学の肩に手を当てる、
するとそこへ1台の乗用車がやって来た。
俺達は道を開けるとTV局の連中や野次馬達が騒ぎ始めると扉が相手1人の高そうな背広を着た中年の男が現れた。
まるで時代劇の悪代官みたいな人相の髭を生やした男だった。
「おいでなすった! 行くぞ妙子!」
「はいはい……」
すると前田兄妹はカメラとメモ帳片手に行ってしまった。
「何だあいつら……」
「特種だってさ」
「またか?」
あの2人は新聞部で学校新聞作りに命を燃やしていると言っても過言では無い、
まぁ実際やる気を出しているのは和利の方であって良子の方は行き過ぎた時のストッパーみたいなモンだがな、
「和利の写真は殆ど使えないけど、良子の記事があるからやっていけるのよね」
加奈葉は言い方はきついが事実その通りだ。
一応普通に写真は撮れるのだが暴走しがちでピントがズレたりフィルムを使い切ってしまう事が多いので部費や小遣いが足りなくなる事があると良子が言っていた事がある。
「でもありゃ誰なんだ?」
「ああ、土井竹グループの会長さんよ」
「土井竹って…… あの?」
俺も名前くらいは知っている、
彼の会社は日本でも3本の指に入るほどの大企業で有名だが裏では脱税や武器密輸などの汚職で世間を騒がせていると言う噂で有名だった。
「今度ここにリゾート施設ができるって聞いたじゃ無い? この山を買い取ったのがあの会長なんだけど、怪獣騒ぎのせいで工事が中断されてるからこうして乗り込んできたって訳よ……」
亜由美は説明する、
「でも参ったなぁ……」
こんなに人がいたんじゃ聖獣探しが大変だ。しかも怪獣騒ぎ、まぁ鬼だとは思うがそうなると倒さなきゃいけない、どちらにしろ今は出来そうになかった。
「ん?」
すると俺は思い出した。
確か入り口は1つじゃなかった。
加奈葉と学で遊びに来た時に使った秘密の抜け穴だった。
それは本来の入り口から少し離れた場所にある、しかしかなり時間が経ってるにも関わらず道がポッカリと口をあけていた。
他にも誰かが使ってるんだろうが俺達には都合が良かった。
細い枝や草で隠れていたが別に通れない訳じゃない、だが足元が滑るので注意が必要だった。
「ここを行くと少し拾い場所に出るんだ」
昔はそこでビニールシートを敷いて持って来たジュースや菓子を食ったもんだ。
と思いにふけっていると突然俺の足元から感触が抜けた。
「うおっ?」
「武様っ?」
俺はそこに空いていた穴に足を取られて躓いた。
「痛って〜…… 誰だこんな所に穴なんか…… ってっ?」
俺は周囲をみて驚いた。
何と俺が躓いた穴は大きなクレーターだった。
「ちょっと何よこれ…… 隕石でも落ちたの?」
「いんせき?」
「要するに流れ星の事だよ、空から落ちるとその反動で……」
俺はあの時の事を思い出した。
北の空に飛んで行った黒い光の事を、夜だから保護色化して良く見えなかったけど確か方角から見ても一致する。
「やっぱりここだったんだ。って事は聖獣もここに?」
「北の聖獣、玄武です」
玄武、確か大地を司る尾が蛇の亀だよな、
「武様、その穴に黒い宝玉はありませんか?」
「黒い宝玉?」
美和さんが言うには玄武の力は黒い宝玉に封印されていて、大きさは俺の麒麟の宝玉と同じ位だと言う、
俺はとりあえずクレーターの中央を探してみるが黒い宝玉は見つからなかった。
「やっぱ燃え尽きちまったんじゃないのか?」
「まさか、玄武の気は感じます、死ぬなんて事は……」
「じゃあ誰かが持ってったんじゃ無い? 武みたいに……」
別に俺は持ってったって訳じゃ…… まぁ似たようなもんだったけどさ、
「持ってったってのも結構ヤバイよな……」
考えてみればこっちが一番厄介だ。
まだ決まった訳じゃ無いが一体どこのどいつだよ?
と思った時、後ろの草むらが動いた。
「何者っ?」
美和さんは足元の石を拾って草むらに投げつけた。
「うわっ?」
すると草むらから悲鳴が聞えた。
でも美和さんそこまでしなくても……
「大丈夫です、当ててはいません」
美和さんは言と声のした方に向かった。
「あっ……」
「美和さん、どうし…… あっ?」
加奈葉もそこにいたものを見て固まった。
俺もクレーターから出て見るとそこには俺より背の低い中学生くらいの男が腰を抜かしていた。
作品名:陰陽戦記TAKERU 前編 作家名:kazuyuki