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陰陽戦記TAKERU 前編

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「いえ、鬼が崩壊しています」
 美和さんが言うにはジョンは悪霊にすらなっていない普通の霊だった。
 それが暗黒天帝の力で鬼になってしまった為に存在その物が消えかかっていると言う、
「暗黒天帝の力は完全なる陰の気です、陽と陰とは光と影、全く違う二つの気が融合したせいで鬼の実態が維持できていないんです、ましてまだ日が輝いていては……」
 美和さんは太陽を見る、
 陽の力が弱まったとは言え完全に消えた訳ではない、よく見ると日の光を浴びたジョンの体が黒い粒子となり消えてゆくのが目に映った。
 ジョンも苦しそうに顔をゆがめている。しかしまだ謎は残っている、どうして鬼が鬼を倒すのかだった。
 すると加奈葉が言う、
「もしかして、香穂ちゃんを守ってるんじゃない?」
「えっ?」
「だってホラ、香穂ちゃん達が襲われそうになった時にでてきたじゃない?」
「そう言えば……」
 あの車の事故だってそうだ。
 前方不注意だったとは言え香穂ちゃんが危なくなったからなった訳だし、となると今までの香穂ちゃんを中心に起こった事件も全ては香穂ちゃんを守る為だとしたら……
「どちらにしろやばいよな」
「美和さん、何とかなら無いの? ほら、あの不良みたいに倒せば戻るとか?」
「……無理です、霊の場合は実体がありませんから、どちらにしろ消滅します」
「ようするにもう二度と会えないって事か……」
 俺は香穂ちゃんを見る、
 香穂ちゃんは暗い顔をする、鬼になろうとも折角また会えた家族と離れ離れにならなければならない、確かに辛いな、俺には分かる…… だが!
「香穂ちゃん、俺やるよ」
「えっ?」
「このまま消えちまうなら、せめて俺が……」
「ダメッ!」
 香穂ちゃんは止める、だが俺は言い返した。
「じゃあ、あいつを苦しませるのか? 君の為に戦ってるんだぞ!」
「で、でも……」
「それにジョンは死んだりはしない、君が忘れない限り君の中で生き続ける!」
「わ、私の?」 
 この時ようやく分かった。
 どうして俺が両親を失っても平気なのか、それは友達が居たからだけじゃない、俺が会いたいと思えばいつでも会えるからだ、俺が忘れない限り両親はずっと俺の心の中で生き続けるんだ。
「美穂ちゃん、君が決めるんだ」
 子供には辛い決断だと言う事は分かっている、
 でも俺は彼女に選択を委ねた、このまま苦しんで消えるか、楽になるか……
「ジョン……」
 香穂ちゃんはジョンを見る、
 ジョンは牛の鬼に倒されても何度でも立ち上がる、その度にジョンの体が次第に小さくなって行く……
「……ねがい」
「……香穂ちゃん?」
「お願い、ジョンを助けてあげて!」
 香穂ちゃんの決意は俺に伝わった。
 涙を目に溜めながらも強い眼光は何も言わなくても分かる。
「分かった!」
 俺は鬼斬り丸を構えて走る、
「うおおっ!」
 俺は地面を蹴って大ジャンプ、
 しかし牛の鬼も黙ってはいない、
 強く握った拳で俺を返り討ちにしようとした。
 しかしジョンが牛の鬼に飛びかかり押し倒した。
「なっ?」
 俺は驚く、しかしジョンは強い視線で俺を見る。その意味は……
「お前まさか……」
 それが望みか……
 それを知った俺は笑って答えた。
「О・K…… 分かったッ!」
 それと同時に振り上げた鬼斬り丸の刀身が輝くと光が俺の身長の3倍はあろう巨大な刃となった。
 そして逆手に持ち変えてジョンごと牛の鬼を突き刺した。
『グウウッ!』
『ゴガアアッ!』
 2体の鬼が光に包まれ爆発する、
 そこへ美和さん、加奈葉、香穂ちゃんがやって来る、
 地面を見るとそこには鬼になったもう1人の不良と半透明なコリー犬だった、これが本当のジョンか……
「ジョン、ジョン!」
 香穂ちゃんはジョンに触れようとする、
 だがその手はジョンをすり抜けてしまった。
 霊体なのだから当然だろうがこれじゃ悲しすぎる、
 香穂ちゃんはとうとう耐え切れず泣き出すがジョンは香穂ちゃんの顔の顔を舐め始めた。
「ジョン……」
『クゥゥン……』
 するとジョンは光の粒子となって消えていった。
 鬼になってでも大事な者を守り抜いたジョンの顔はどこか安らかだと思った。
 香穂ちゃんは空に向かって大声で泣き出した。その鳴き声はいつまでも響いた。