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陰陽戦記TAKERU 前編

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「大体ね、こっちだって色々都合ってモンがあるのよ、何でもかんでも自分のやってる事が重要なんて思わないで、迷惑なのよ!」
「やめろ加奈葉、言いすぎだ!」
 俺は美和さんを見る、
 美和さんは目を吊り上げて唇を噛み締めていた。
 表情は怒っていたがその瞳は物凄く悲しそうだった。
「……分かりました、ご迷惑ならば出て行きます、さようなら」
「えっ、ちょっと待てよ!」
 俺は肩に手を触れようとするが美和さんの姿が消えてしまった。
 後に残されたのは字のかかれた人型の紙だった。
「えっ?」
「まさか、式神?」
 昼間本を見て調べた。
 式神とは呪文を書いた紙に法力を注ぎ込んで作り出す陰陽師が使う使い鬼の事である、恨みや怨念を抱いた鬼とは違い術者の命令には絶対に従う……
 同じ存在でも悪の組織が世界征服の為に造り出した改造人間と正義の博士が造り出した世界平和を守る改造人間の様な物だ。
「美和さんっ!」
 俺は慌てて家に向かった。
 扉を開けるが家の中からは人の気配が消えていた。
 美和さんに貸した両親の部屋や客室、風呂場やトイレの扉もノックしたが美和さんの姿はどこにも無かった、鬼斬り丸はそのままだが加奈葉が貸した服が畳まれてテーブルの上に置かれていて、前に着ていた陰陽師の服と弓なくなっている。
「そんな……」
 俺は拳を強く握り締めて壁に叩きつけた。
「はぁ、はぁ…… ちょっと、武……」
 そこへ息を切らしながら加奈葉がやって来た。
「あれ、美和さんは?」
「……いない、出ていった」
「えっ……」
 美和さんはずっと家にいた。
 式神を通して事故現場に向かったのだろう、そして俺達と言い争いになって自分が迷惑だと知ると荷物を持って出ていってしまったのだ。
「探してくる」
 俺は加奈葉とすれ違う、
 すると加奈葉が俺を止めた。
「どうしてそこまでする必要があるのよ?」 
「何だよ、探すのが悪いのか?」
「だって、あの子が着てから何もかもおかしくなったんじゃない!」
「んな訳ねぇだろ、悪いのは暗黒天帝で……」
「じゃあそいつはどこにいるのよ、もしかしてあの子が暗黒天帝かもしれないじゃない」
「んだと?」
 今までおかしな現象の側には必ず美和さんがいた。
 彼女こそが暗黒天帝で事件を巻き起こしているのでは無いかと言うのだ。
「証拠があるのかよ、美和さんが事件を起こしてるって言う証拠がよ!」
「そうに決まってるじゃない!」
「ふざけんな! そっちこそ証拠が無いだろ!」
「何よ、何であの子を庇うのよ、訳が分からないわ……」
 そんなん俺も同じだった。
 だがどうしてかは分からないが俺の中で何かが疼くんだ。
 美和さんは守らなければならない、例えどんな事をしてでも守らなきゃいけないってな、
「誰が何と言おうが俺は彼女を助ける、美和さんは待ってる人がいるんだよ!」
「えっ?」
 俺は話した。
 美和さんには好きな奴がいる、それにこの時代じゃ美和さんは頼れる人間がいない、まさに天涯孤独だ。
 俺と同じでな……
「あっ」
 そう聞くとさすがに加奈葉は気まずくなった。
 さすがに言い過ぎたと思ったのだろう、両肩が震え始めた。
「俺も理解しろとは言わねぇよ、でもな、美和さんがいるべき場所はここじゃない、俺は彼女を元の世界に帰してやりてぇんだ!」
 それだけ言うと加奈葉は何も言わなくなった。
 両手の力を抜くと加奈葉は言った。
「……分かった、その代り、美和さんを連れて必ず帰ってきて」
「……ああ」
 俺はそれだけ言うと家を飛び出した。