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陰陽戦記TAKERU 前編

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 結局その日は美和さんを連れて遊びまわっただけだったが美和さんにとっては驚きの連続だった。
 彼女にとっては見る物触れる物が始めてだったからだ。
 美和さんはとりあえず俺の家で預かる事になった。
 年場も行かない男と女の子が一つ屋根の下とは色々問題はあると思うがこの世界でたった1人の美和さんをほおって置く事などできなかった。
 その夜、俺はトイレに起きて用を済ませ、自分の部屋に戻る途中で縁側に正座をしている美和さんを見つけた。
 彼女の膝の上には弓がありその奇麗な瞳は月を眺めていた。
「美和さん、まだ起きてたのか?」
「あ、武様……」
「やっぱり寝付けない?」
「ええ、それに奴が来るかもしれませんし……」
「でもさ、奴もそう簡単には来られないんだろ?」
 美和さんはこの家に結界を張ったと言う、門の前と裏口に筆ペンで五亡星を書いただけだがこの家から自分と俺の気配が消えたらしいのだ。
「私が言ったのは可能性の問題です、もしかしたらもう知られているのかもしれませんし……」
「心配性だな、少しリラックス…… いや、落ち着いた方がいいよ」
 俺は言う、すると美和さんは頷いて月を見た。
「月だけは…… 変わってません」
「え、そうか?」
 考えてみればそうだな、
 町や人は変わっても天体までは変わらないだろうな、変わったとすれば冥王星が無くなったくらいだ。
 あ、平安時代に冥王星は無いか、それ以前に地球と言う呼び名すらないはずだ。よく分からないけど……
「私もあの人と一緒に月を見ていました」
「あの人?」
「はい、私の想い人です」
 俺は一瞬固まった。
「あのさ…… その想い人って…… 恋人か何か?」
「えっ、そ、そんな……」
 すると美和さんは顔を赤くして目を反らした。
 こんなに慌ててると言う事は図星か? つーか俺は何でそんな事聞いてんだ?
「こ、恋人と言うかどうかは分かりませんが…… よく逢引きをしていました」
 逢引き…… つまりデートの事だよな? つまり彼し持ちって訳か…… 何故だか分からないが俺の胸は物凄く痛くなった。
「で、でも身分は違いました…… 決して結ばれる訳はありません」
 彼女が言うには彼氏は結構身分の高い貴族の息子として生まれ、美和さんは父が陰陽師だったと言うだけで偶然知り合い2人は時々屋敷を抜け出して人目のつかない場所でこっそりと会っていたのだと言う。
「そ、そうだったんだ……」
 何々だよ、何で俺が慌てる必要があるんだよ?
 別にどうでもいいだろ、別に付き合う訳じゃ無いし、
「あのさ……」
「はい?」
 正直面と向き合うと何言っていいか分からなくなる、
 俺は口ごもるがやがて言葉を切り出した。
「帰れると、いいね…… 君の世界に」
「……はい、ありがとうございます」
 美和さんはニッコリと笑ってくれた。
 それだけで救われた気がしたが俺の胸に開いた穴はずっとそのままだった。
「じゃあ、俺は先に休むから……」
「はい、おやすみなさい武様」
 一々頭を下げる美和さんを背に俺は部屋に戻った。
 ドアを閉めると俺は右の拳を握り締めて歯を食いしばった。
「くそっ……」
 ジレンマだった。
 どうしてかは俺にも分からなかったが砂糖抜きで濃さを五倍にしたインスタントコーヒーを一気に飲んだよりも苦い物が俺の中に引っかかっていた。