陰陽戦記TAKERU 前編
第十一話 最終対決・前編
俺達の目の前についに暗黒天帝が姿を現した。
俺は美和さんに聞いただけだからどんな奴か知らないけど想像してたよりも薄気味悪かった。
黒い炎の中に逆立った髪に尖った耳、鷲の嘴みたいな鼻に大きく裂けた口の中には鋭い歯が並んで切る。こいつが暗黒天帝か……
『邪魔をしなければ1人は倒せた物を……』
「テメェ……」
こいつの狙いは俺だった。
だが学が庇ってくれたおかげで俺は何とか無事で済んだ。
『まぁいい、用済みのクズを始末する事が出来たんだからな』
こいつ、今まで手を貸してきた学をクズ呼ばわりだと?
「暗黒…… 天帝……様……」
しかし学はまだ意識があった。
『ム、何だ。まだくたばっていなかったか…… 鬼の力がまだ残っていたのか?』
「いい加減にしやがれっ!」
俺は暗黒天帝の前に立つ、
「テメェ、自分に協力してた仲間を攻撃するなんざ、一体何考えてやがるっ?」
『仲間だと?』
すると暗黒天帝は大声を出して笑い始めた。
『ハハハハハッ! 何を言うかと思えば、使えないならばただのクズだ』
「貴様っ!」
桐生さん達も聖獣の武器を構える、
『それにそいつが死んだところでお前達には構うまい? 貴様達に鬼を差し向けた敵なのだぞ?』
「それはお前が唆したからだろうが、人に責任押し付けるんじゃねぇ!」
だが暗黒天帝はさらにあざ笑う。
『責任の押し付けとは人聞きが悪い、そいつは自分の欲望を叶えたいが為に他人を苦しめて陥れたのだ。死んだ母を生き返らせてその娘と結ばれたいが為にな!』
「えっ?」
その娘、それは今学を支えている加奈葉の事だった。
それを聞いた瞬間、学は加奈葉から顔を背けた。
「学、アンタ……」
加奈葉は顔が赤くなった。
『滑稽な話だろう? 自分が利用されているとも知らずにな』
「滑稽なのはテメェだっ!」
俺は腹の底から怒鳴りつけた。
「……テメェだけは許せねぇ、ぶった切ってやるから覚悟しやがれっ!」
前々から思ってたが難しい言葉なんかどうでも良かった。
こいつだけは生かして置く事はできない、まさに百害有って一利無しだ!
「武様、私も戦います。」
美和さんは俺の横に並んで弓の弦を引く、すると香穂ちゃん、拓朗、桐生さんも得物を倒すべき敵に向けた。
「私も、ジョンをあんな目に合わせて許せない!」
「僕も戦いますっ! こいつが元凶なら叩くのみだ!」
「人間を舐めるなっ!」
皆俺の横に付く、
しかし暗黒天帝はどこか余裕だった。
『フフフ…… 貴様達に余が倒せるかな?』
「うるせぇっ!」
麒麟の光の剣、炎の矢、風の刃、氷の礫、水の弾丸が一直線に暗黒天帝を攻撃した。
すると暗黒天帝は目を見開いた。
『待っていたぞ、この時をなっ!』
暗黒天帝の前に巨大な黒い卵のような物体が出現した。
それに攻撃が当ると俺達の攻撃は黒い塊に吸い込まれ、眩い光を放った。
「なっ、何だ?」
『ハハハハハッ! まんまと罠に嵌まったな!』
「何だと?」
『ククク…… 余が元の世界に帰る為にはその時と同じ『力』を得る必要があったのだ』
同じ力…… それは自分が持つ強力な陰の波動と聖獣達の陽の気がぶつかり合った事で発生するエネルギーだった。
暗黒天帝と聖獣の相反する2つのエネルギーがぶつかり合う事で時空に亀裂が生じて美和さんと暗黒天帝はその中に吸い込まれてこの時代にやってきた。
しかもそれを再現するには同じ質量のエネルギーが必要になる。
「まんまといっぱい食わされたって事か……」
桐生さんは歯を軋ませる。
『ククク…… 後悔した所でもう遅い、後は人間達に作らせた機械を発動させるだけだ!』
「タイムマシンか?」
「そんな事させるか!」
「逃がさないもん!」
俺と香穂ちゃんは高速移動で暗黒天帝に近づいて攻撃を放った。
しかしそれよりも早く暗黒天帝は消えてしまった。
『大人しく待っていろ、余が元の世界に帰れば全てが終わる、この世界も無くなり全ては暗き常闇へと帰るのだ。アハハハッ!』
何もない空に暗黒天帝の言葉が響き渡った。くそったれ、逃げやがったか……
俺達は動けない学を介抱した。玄武の力で回復して傷は回復したがまだ動かない方がいいだろうな。
「これで大丈夫」
「……」
しかし学は気まずそうだった。
さっきまで敵だった相手に回復してもらったとあったら凄いショックだな。
ましてや暗黒天帝に利用されて願いも叶わず終い、1番の被害者は間違いなくこいつだ。
「だがこれからどうする? 暗黒天帝はどこに行った?」
桐生さんの言う通りだった。
何しろ奴は逃げちまった。どこに行ったのかも分からない……
「せめてタイムマシンのありかだけでも分かれば……」
研究所内はさっき調べてもそれらしい物は何も見つからなかった。
すると美和さんが思いついた。
「……もしかしたら、この世界に始めて来た場所なのかもしれません」
美和さんが言った。
神隠しにあった人々が元の世界に戻るにはその場所に出てきた場所からしか元に戻れないと言う。
「あいつがどこから出てきたか分からないけど…… 心当たりはある、美和さんが振ってきた場所だ」
そこは覚えてる。加奈葉の家の近くの橋の上だった。
「でも今から行ったんじゃ間に合わない、」
時計を見ると午前0時20分、あと1時間40分しかない。
「金も無いし車も無い、打つ手は無しか……」
俺達は表情を静める。
『そんな事は無いわ』
すると朱雀が喋った。
『私達全員の力で皆の町に移動させるわ』
「そんな事ができるのか?」
『ええ、ただしその為には麒麟の力も必要よ』
「麒麟」
俺は話し掛ける、すると麒麟の宝玉が輝いた。
『確に可能だ。しかしお前達は疲労している。少し休んでからにしたらどうだ?』
「そうだな、まだ時間もあるし……」
1時間もあれば俺達は回復できる、正直ヘトヘトだった。
俺達は半壊した研究所に入って休憩を取る事にした。
それからしばらく経つ、
「学」
すると加奈葉が学に尋ねた。
学は加奈葉と目を背けるが加奈葉の方も言いずらそうだった。
「本当に…… タイムマシンなんて物作れたの?」
すると学は答えた。
「さぁ、分からない……」
「おい、学!」
俺は椅子を蹴って立ち上がる。
「本当の事だ。実験した訳じゃ無い……」
それもそうか、もし本当にタイムマシンを作っても過去に飛んだと言う証明が無ければ意味が無い。
「しかし時間を移動するには問題があった」
学は時間移動を起こす為に聖獣達が封印されていた地脈を破壊したと言う、
それは地脈の流を変えて別の場所に集結させる為だったらしい、そして移動させた場所の磁場を乱れさせ、今まで集めた陰の気と聖獣の力をぶつけて空間に裂け目を造ろうとしていたのだ。
「だがさっきも言った通り成功するかどうかは分からない、それは奴だって分かってるはずだ……」
タイムスリップが成功しても確実に元の時代に帰れる訳じゃ無い、
美和さんと暗黒天帝がこの時代に飛ばされたのは言わば偶然の事故で、再び時間を移動できる方法があったとしても元の時代、元の時間、元の場所に戻る保障に戻れる確立は圧倒的に0に等しい、
作品名:陰陽戦記TAKERU 前編 作家名:kazuyuki