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PLASTIC FISH

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01.幻日(7/10)



「…まずい!」
その警告を見てからの京の行動は、背水の陣も同様で混乱しているにしては正確で素早いものだった。
メールソフトを起動し、パスワードを打ち込む。
そして、左手でデスクを探り『アダムとイヴ』計画に関わっている全ての社員のリストを開く。みな緊急時にそなえての専用のメールアドレスだ。
京はざっと目を通して、自分を入れて十八名と確認。素早く一つの文章を打ち、一斉送信した。
『狩人がリンゴを盗んだ』
これで関係者はすぐに駆けつけるはず。緊急事態だ、十八名もいれば気付いている人数も半数は期待していいだろう。
何者かが送信元をかぎつける可能性もあったが、今の京にそれを考慮する時間はない。
狩人は第二エリアを突破しているが、電気一つついていない建物だ。わざと造られた迷路のような道に、混乱していることだろう。
「(……いざとなれば)」
しまいかけた鍵を再び取り出し、目立たない位置にある引出しを開ける。そこには、日本における普通のオフィスには似合わないものが入っていた。
拳銃が一丁。予備の弾も引き出しの内部に転がっているが、弾は入っている。問題ない。
思えば、この研究室に呼ばれ、秘密を共有した時から――この銃を手にしたのだった。仕事の合間合間に訓練をしいられ、リアルな人形、そして人の形を維持した死体を何度も撃たされた。
さすがに、生きた人間を撃つことはなかったが。
「……」
助けに誰も来ない可能性もある。
その時は、自分が狩人をしとめる。そしてその狩人は、明日の朝一番の実験台となる――強盗が一人いなくなったとて、世界は問題なく巡る。
「(役に立ってもらうわよ、野良犬)」
銃を手にして緊張が少し解けたのか、にやりと肉食獣のような笑みを浮かべる京。あの日のままで、彼女は生きていた。狩人を狩る狩人が、今ここで獲物を待っている。


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴