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PLASTIC FISH

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A-side11.その瞳が焼き付いても(4/5)



二人は一体何のことを話しているのだろうと思い、理解するために京はただただ黙ってやりとりを聞いていた。
クロエは真にこの国を出ることを妨害され、子どもらしくもその仕返しのためにここに来た? となると、巻き込まれてボロボロになった自分がばかみたいだ。
それに自分だけではない。
少し離れた位置にいる樹もまた、巻き込まれた。その事実を思うと、腹が立って仕方がない。

「……京は私のものよ。余計なことを吹き込む必要なんてない」
「……」
「ねえ、そうでしょう? 京。お前は私のもの、ずっと私が好きにしていい。そうよね?」
ずっとクロエと向き合っていた真だが、京の存在を忘れていたわけではないらしい。ふっと彼女のいる方向を見つめて、子どものように微笑んだ。
どす黒い支配欲が、まっすぐに向けられている。樹がこのやりとりを聞いている。京は、うなずくことをためらった。首を横に振ることこそ自殺行為に等しいので行わなかったが、肯定もしない。
真は少し不思議そうな顔をして黙っていたが、もういいとばかりにクロエの方へ向き直った。
「京、あなたがどう考えているかは後で聞く。今私とこの小娘が話していたことは忘れなさい、いいわね。貴方と出会う数年前……今となってはどうでもいい、ことよ」
ここで初めて、京はうなずく。
「いい子」
「くそっ、真、お前だけは――ッ!!」
「うるさいわね、外野。退場する気がないのなら、でしゃばらないで」


交通事故の瞬間を見たような、そんな気分というべきなのだろうか。言い表せないような、それでも鼓膜を傷つけるような大きな音がして――
見つめていた京には、それが何でどうあるべくして発された音なのかわかってしまった。
単純だ。真が人ならぬ力でクロエを殴った――それだけのことだ。受け身をとれなかったとはいえ、人の形をしたものはあれほど吹き飛ぶものだろうか。
地に落下し転がることすら許されない。軽い体は人形のように京の視線の上を過ぎ、よくあるフェンスへと勢いよく衝突する。
フェンスはその衝撃を耐え切れず、へこみ、そして外れた。数十メートル下に落ちたフェンスが、がしゃんと大きな音をたてる。
少女が落ちて潰れた音は聞こえなかったが、さすがにこの音は住宅街の方まで響くのではないのだろうか。
不安そうに主を見やった京に対して、何事もなかったかのように笑む真。
「心配いらないわ」


――しゃん。
「大丈夫」
一歩一歩倒れている京に近づきながら、真はそう繰り返した。
主が自身へと伸ばした手。それは、先ほどクロエという少女の姿をした吸血鬼をためらいなく殺そうとした手。
無意識のことではあったが、怯えをみせた京は真から逃げるようにずるずると後退した。
「……真」
飾り程度にしかならないが、名を呼ぶ。目の前に立つ主が何を考えているのか、それを知るのが怖かった。
「ごめんなさいね、あれは私が片付けそこねた荷物。それを、何も関係ないあなたに背負わせてしまった。苦しい思いをしたでしょう」
そんな京の心模様を知ってか知らずか、そう特別な感情を抱くこともなく淡々と真は詫びた。
「いえ、それは私より……」
言いにくそうにしながら、京は言葉途中に樹を見た。まだ、彼女は立ち上がれないでいる。
二人の間に割って入れるほど、樹は人間離れしていないのだ。絶対的な非日常というものに、慣れていない。
「……」
視線を誘導される真。
樹の姿を視界にとらえるなり、少し不機嫌そうに顔を歪めた。わずかなものではあったが、そこから生じるプレッシャーに京は恐怖する。
まさか。
まさか、この状況を見てしまった樹を、真は――。
慌てて話題をそらす。
「真、あの……指輪、壊してしまったのだけれど」
別に自分が望んで叩き壊したでもなし、後ろめたいことはないのだが――詰まりに詰まった言葉は、切れが悪い。
「いいわ」
「え?」
あっけない返事に、驚く。
指輪は、見る限り相当のアンティークものに見えた。つまり、古い。細かい細工などはないものだったが、それでもそれなりの値がつくものではないのだろうか。
「あれは桂の持ち物だもの。あなた、つまり京には必要のないものだわ。壊れて、逆によかったかもしれない」
「……真?」
「壊れたことで、なんだか……別人として、受け入れられる気がしてきたから」
「まこ、」
名を呼ぼうとしたが、人の声にさえぎられ京の言葉は不自然に途切れた。


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴