PLASTIC FISH
A-side11.その瞳が焼き付いても(2/5)
来た道を戻れ、と樹は言った。
そして『そこにいる人』に助けを求めろ、とも言った。
おかしい、京の頭がこんがらがりショートしそうになる。あの場所に確かに人はいなかった。動物すらおらず、生き物の気配を感じなかった。
そして、あの高台に辿り着くには今いるこの道を通らなければならない。クロエの仲間だとすれば――最悪の予感が、よぎる。
どうすればいい。
どうしたらいい。
「……う……」
倒れたまま、動いているのは必死にあがき状況を打破しようとしている指先だけ。
そんな弱弱しい手で何ができるというのか。それでも京を守らんとする樹の、なんと心の強きことか。
「……と」
追い詰められていく京の脳裏に、主人である吸血鬼の名が浮かぶ。声にすることこそ叶わなかったが、思えばクロエと名乗る少女は真を追ってきたと言っていなかっただろうか。
ということは。
絶対ではないが、ということはつまり坂の上には――。
――しゃん。
その答えを待っていたとばかりに、京の背後より鳴る鈴の音。
深遠に、この世界を生きる亡霊が起こす音の蛍火。その先に待つは救いか、絶望か。
作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴