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PLASTIC FISH

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10.残照、選択の時(8/8)



――出会ってから最後まで、勝手な人だった。
にこにこしていると思えば、突然重い話を切り出しては幽鬼のような危うさをもって、それでも自分に好意をよせてくれた。
『何故、笑ってほしいなんて勝手なこと言うの』
『ん、好きだから』
『笑ってる人が?』
『いや、みやちゃんが』
まっすぐすぎて、まぶしかった。抱いていた嫌悪感も優しくほどかれて、最後はそんなに、嫌いでもなかった。かもしれない。
両親の、家族がいることの大切さを教えてくれたこともあった。傷つくことを恐れない、いや、そんなものじゃない。そんなきれいなものじゃない。
あの人――樹さんは、富岡樹という人間は、傷つきたかったのだ。自分がカルマを背負っていることを知り、わかっているがために罰を求めた。
そういった歪んだ形で、助けを乞うた。
また会った日には、いつものように笑ってくれるのか、それとも。

――勝手といえば、別の意味で確かに勝手な人だった。
いきなり現れて、いきなり生死の境をさまようことになった私に手をさしのべ、救い出してくれたあの人。
『……会いたかった。ずっと、あなたを探していた』
瞳の奥をのぞいてしまえば、あまりの深さに狂ってしまいそうなほどだった。言わなくてもわかる。真が一人で生きてきた日々は、数十年なんて生易しくない。
けれど、信じたい。最初の約束した夜にはじまり、命を救ってくれた夜に続き、誓いを交わした夜も――いくつもの夜に見てきた真の顔が、素顔であったと。
嘘いつわりなく、ありのままに微笑み、ありのままに厳しく、いつの日も自分とともにあったことを。
私はここにいる。
鈴の音を響かせ、闇夜にその長く美しい髪を揺らしてくれたら――どんなに、どんなに。

「……まだ、生きたい」
「ん?」
死んだようにぐったりとしていた京が突然つぶやき、どうしたものかと思索していたクロエは思わず反応を返してしまった。
次の瞬間には、なんだ、人間様お得意の命乞いか、とため息をつく。
「まだ、死にたくない……死ねない……会いたい人がいる、この世界がどんなに醜くても、帰れないものだとしても、生きる理由がある……」
「……?」
「だって、私を待ってくれている人が、私を必要としてくれる人がいるんだもの……!」

◆真を呼ぶ(B-side)

◆樹を呼ぶ(A-side)


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴