PLASTIC FISH
10.残照、選択の時(7/8)
「(……)」
最悪にもここは展望台から一本道だ。樹はまだあのベンチにいるのだろうか。降りるのなら、ここを離れるのなら、全てが終わってからにして欲しい。
そして人間の世界へ帰るのだ。自分はもう帰れそうにないが、片鱗を話しただけで実際目で見てもいない彼女ならまだ戻る道はあるだろう。
最悪なパターンとしては、今の状態を見られることか――口封じに、このクロエが何かしでかさないといいのだが。
「……クロエ、といったわね」
「何?」
クロエは意外にも、素直に返事をしてくれた。今の姿だけ見れば、ちょっとませていて、だがそれすらもかわいらしい異国の少女に他ならない。
「上から、人間が一人ここを通り降りてくるかもしれない。背が高くて、毛先の赤い女の人。その人は何も知らない……だから、見かけても見逃して」
「人間一人いなくなっても変わらないのよ、この世界は」
「……お願い、あの人は何も……何もしてない、まだ昼の世界へ帰れる」
「何勝手に私が乞いを蹴ったことにしてんのよ」
「え?」
「お前にとって、大切な人なんでしょうね。今までの世界に戻るための、一つの救い。彼岸に咲いた、青い花」
「……」
「いいよ、気が変わらないかぎりそうしよう。でも、お前は今ここで死んでもらうよ」
「……」
何も言えなかった。
いちいち説明してくれる、クロエは本当はやさしいのだと、そんなのん気なことを考えていた。恐怖を重ねるために、わざと言っているのかもしれないが。
「鉄砲玉がいい? それとも八つ裂きがいい? 他にも提案があって面白そうだったら乗るよ」
「……」
わざと言っているの方に、重みがかかった。しかし、死に方を選ばせてくれるというのはある意味親切だ。
何も知らないうちに殺されてしまったほうが、精神的に悔いなく逝けるのだが。
――逝く?
自分が、高階京という存在が、死ぬ?
死ぬって、何?
動かなくなるということ。
笑わず、泣かず、怒らず、壊れること。二度とその声の聞けぬ体になること。もう帰らないこと。
作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴