PLASTIC FISH
09.星空は見えず(15/15)
樹は、話を途切れさせて遠くを見る。それも一瞬のことではあったが、京が察することのできないほど短い時間ではなかった。
「ま、そんなところだよ。連中はああ言ってるが、人としての水城はもう死んで八年になる。あれは水城じゃない。未来のイヴだ」
「……」
「その後も、しばらくは起きたまま夢を見てた。まあ、そういう感じの矢先に一人の新人が入ってきたよ。背は低いくせして、態度はでかそうな生意気っぽいやつが」
「……包み隠さず言いますね。気にしませんが」
「うん。最初はね、何とも思ってなかった。けど、君が一匹狼としてただひたすらにデスクに向かう姿を見て、ふと思ったんだ」
樹は、こんなこと言うとくさいけどね、と今更にも近い照れを見せる。
「あー、この人は放っといたら壊れちゃいそうだなあって」
「壊れません」
「んー、この人は放っといたらどこまでも遠くに行っちゃいそうだなあって」
「行きません」
「……なんでかな。大切な人を失ったような、そんなかげりが見えた。根拠もないのに、なんか親近感もっちゃってさ。ずっと、見てるうちに好きになった」
「……」
「私、薄情だね。あんなに水城という一人を愛してこれまでの人生過ごしてきたのに、あの子が死んだとわかるとほいほい次の誰かに惚れこんじゃうなんて」
「それは……」
「わからない。わからないんだ、私にも。傷をなめあうのが目的なのか、それとも別のものを君に見たのか。わからないよ……」
よく晴れた冬の一日は、喧騒をかき消すほど澄んだ空気に満ちていた。
京は、黙り込んだ樹を見つめてふと思う。
自分があの人を、真に対して好意をもっているのは、何故なのだろうと。誓いの力がそうさせるのか、それとも別の面に惹かれているのか。
ああ、さんざん言ったけれど、自分も目の前の人とあまり変わりないんだな。
そう思うと、気持ちが少し楽になった気がした。
作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴